「歩」を一歩進めるなら、そのマスの「歩」を消しゴムで消して、ひとつ前のマスに「歩」と書く。書いたら相手にノートを渡す。その繰り返しです。1回の授業で対局が終わらないときは休み時間中も継続。次の授業に持ち越すことだってありました。ノート将棋は中2でトモヒサとクラスが別々になるまで続きました。
部長との対局の数々は
心地よい思い出
そして高校で将棋部に入部します。私の家は貧乏でしたから、母親からは「高校は自力で通え」と言われていました。だからバイトをしなきゃならない。入部するなら、活動が週1回、水曜日だけの将棋部一択。迷いはありませんでした。
将棋部の活動場所は2年H組。教室の前でおなじクラスの「王子」というあだ名の男子とばったり会いました。彼も将棋部に入るらしい。ふたりで一緒に扉をガラガラ開けて入ったら、教室の隅っこにひとり、メガネをかけた生徒が座っていました。入ってきた私たちを見て「来てしまったんだね」とポツリ。その人が学年上の将棋部の部長でした。
「本当に入るのかい?やめてもいいんだよ?君たちがこなければ、今日この将棋部をつぶすつもりだったのに……」
そんなことを続けざまにぼそぼそと言ってきます。
「こんなつまらない部活には入らないほうがいいよ。将棋なんてやったってなんにもなんないよ……」
ひたすらマイナスプロモーションです。
「おれとやりましょうよ」
ぐずぐずしている部長に私は対局を申し出ました。
その対局が、すごくいい将棋だったんです。熱戦でした。最後、部長がよくわかんないミスをして私が勝ちました。あれはほんとに部長のポカだったのか、もしかしたらわざとなのか。でもそのときの部長はたしかに楽しそうでした。将棋の本を片手に、教室でずっとひとりで将棋を指していた部長には、同世代との対局がうれしかったんだと思います。
それからバイトが休みの水曜日の放課後は、将棋部で王子と部長とひたすら対局。18時くらいまで黙々と。心地よい時間だったなあ。







