「“飢える”ことを経験したいので
しばらく何も食うてへんのです」
この歌をレコーディングし、この年、ジョイントコンサートで全国を回ることになり、正月早々から大忙しの準備が始まった。
まずは2人でゆっくりミーティングをする必要があるね、ということで彼が私の自宅を訪ねてくれた。
その日、彼は1人でふらりとやってきて、私が玄関を開けると「白パンありますか?」と言った。びっくりする私。
「僕、飢える、ということがどんな感じなんか経験しようと思って、しばらく何も食うてへんのです。そこで今倒れそうになったんで、なんか食うたほうがええかな、と思って」
私は彼の要求通り「白パン」、つまりトーストしてない食パンを1枚、食べてもらった。
やっと落ち着いて部屋に入った彼は、今度は私のデスクに筆と墨があるのを見て、「何か書いていいですか」と言い出した。
真っ白な大きな和紙を出して「お好きにどうぞ」というと、もう夢中で書き出した。
いつまでたっても打ち合わせらしいことにはならないのだけれど、彼の持ち味は十分に理解できる素晴らしい時間になった。
ひとりシルクロードへ
無銭旅行に出た理由
その時、河島英五、26歳。逞しさに溢れたエネルギッシュな姿からは、誰も想像できなかったが、彼は生まれた時から、病弱だったということが少しずつわかってきた。
「僕、運動会って、参加したことないんです。いっつも見学でした」
そういう弱さを打ち消すように、彼は強い男に憧れ、病弱さを挑発するように過酷なことを自分自身に課すような生き方をしてきた。
彼のバンド活動は1973年、21歳から始まっているが、「酒と泪と男と女」は19歳の時にもうできていた。「河島英五とホモサピエンス」の名前で出している初期のアルバム「人類」「運命」「信望」「仁醒」という作品。彼のゴツっとした人間の本質を掴む言葉の力が素晴らしくて驚かされた。
一緒にうたったコンサートでは、1人で出かけたシルクロードの無銭旅行の話が何度も出た。
「砂漠でしばらく髪の毛洗ってないと、髪の毛がごわっと固まって、ライオンみたいになるんですよ。シャンプーするときはまずその塊を手で破壊せんといかん。水が染み込むまでは大変です」







