ラストシーンの撮影は部外者入室禁止
「今日私、脱ぐんでしたっけ?」

 さて、話を映画に戻そう。問題のラストシーン、筋書きはこうだ。

 兆治が茂子と結婚する前に、「さよ」という恋人がいた。大金持ちとの縁談があり、恋人の兆治は彼女の幸せのために身を引いた。しかし、彼女は兆治を忘れられず、家を出てしまう。こっそり店に会いに来たりしていたが、そのまま行方不明になり、心配した兆治はある日、彼女を探しに行ってしまう。札幌で探しあてたさよは体を壊してボロボロになっていて、そのまま亡くなってしまう。

 やっと店に戻ってきた兆治。ここからがラストシーンだ。

 閉店後、店の後片付けをしている茂子に、兆治が声をかける。

「すまなかったな」と。茂子はサラリ、っと「え?何が?さよさんのこと?」と答え、こう続ける。

「人が心に思うことは誰にも止められないもの。私あなたは行ってしまうかもしれない、と思っていたわ。羨ましかった」

 そして「シメジのおじや作って待ってるわ」と店を出て家に帰る。

 このラストシーンを撮影する日は全ての撮影の最後の日。朝から東京のスタジオには張り紙が貼られた。

「本日の撮影は一切の部外者の入室を禁止します」

 そしていつもは埃っぽいスタジオが掃き浄められ、入り口にズラリっとスタッフが整列して健さんと私を迎えてくれた。

 すごいなあ、と驚き、「今日私、脱ぐんでしたっけ??」と冗談を言いながら、セットに入った。

リハーサルかと思っていたら
まさかの本番だった

 撮影とは言いながら、住み慣れたお店のセットは懐かしく、最後の撮影に臨んだ。

 降旗監督の簡単な段取りの説明があり、すぐにカメラが回った。長回しのこのシーンをワンカットで撮ろうという。

「すまなかったな」の声がかかるまで、私は店の片付をしなくてはいけない。

 ところが、想像以上に長い時間があり、やることが全部終わってしまった。