「17人のトップ企業CEO」という無言の圧力
トランプ大統領が今回、北京に連れてきた顔ぶれを見れば、今回の会談の本質が見えてくる。テスラのイーロン・マスク、エヌビディアのジェンセン・ファン、アップルのティム・クック、ブラックロックのラリー・フィンク、ボーイングのケリー・オルトバーグなどだ。企業トップ約20人が揃い、個人資産の合計だけで1兆ドル近くにのぼるとも言われる億万長者たちだ。
おのおのの企業の産業分野を見ると、AI、半導体、宇宙・EV、金融、航空機と一見、多岐にわたるが、よく見ると中国の国家戦略「中国製造2025」で最重要目標に掲げてきた分野に集中していることに気づく。つまり、今回の顔ぶれは中国がいまだ世界トップに立てていない産業の企業トップばかりが並んでいたのである。
習主席が10年かけて「自主開発」を叫んできた分野の現時点での世界最高峰が、全員北京に立っているという構図だ。
トランプ大統領が伝えようとしたメッセージは言うまでもない。「お前たちが喉から手が出るほど欲しい技術、その鍵を握っているのは、ここに並んでいる私の友人たちだ」と。格差を数字ではなく、顔ぶれで示してみせたのである。まるでトランプ親分に引き連れられた実力舎弟の集団のようにも見える。
もちろん威圧が主目的ではない。後述するが、あくまで実利を取るためである。
首脳会談では3つの「お土産」が発表された。アメリカからはエヌビディアの高性能AIチップ「H200」の中国主要テック企業への販売承認、テスラの完全自動運転(FSD)の中国解禁、一方、中国からはボーイング機200機の大型受注である。
なお、この200機という数字は当初の交渉予想(500機前後)をかなり下回っている。「アメリカに部品供給を止められたら立ち行かなくなる」という中国側の構造的懸念に加え、9月に予定される習主席のワシントン訪問に向けてカードを温存しておきたいという意図もあると見られる。
さて、一見するとアメリカからの「お土産」のほうが多いが、実際はそうではない。ボーイングの受注とFSD解禁がアメリカ企業に利益をもたらす取引である一方で、中国が最も欲しがっているH200については以前から了承されていて、あらためて「売っていい」という承認が出ただけである。
「承認」と実際に手元に届く「納入」の間には、輸出管理の審査、個別ライセンスの発行、出荷条件の確認など、アメリカ側が制御する多くのハードルが存在する。中国は「買える」という体面を得たが、チップは一枚も手にしていない。これが今回の会談を象徴する構図だ。
中国はこの30年間、アメリカの圧倒的な軍事力に怯えてきた。そして、今回トランプ大統領が中国に持ち込んだのは「プラットフォーム」である。エヌビディアのチップがなければ中国のAI開発は止まり、アップルのエコシステムから切り離されれば中国のサプライチェーンが崩れる。上述したように、ボーイング機についても米側から部品やメンテナンスが供給されなければ運行はできない。







