「みかじめ料」から「みかじめ制度」へ

 過去の米中首脳会談で中国が約束した購入コミットメントは、履行されないまま次の交渉のカードになるというサイクルを繰り返してきた。2017年のトランプ訪中時も、2018年の貿易交渉でも、中国は「購買リスト」を大々的に公表したが、履行率は一部にとどまった。

 トランプ大統領は中国の「買うと言っても、難癖を付けて買わない」という手口を熟知しており、今回は約束ではなく「実」を取りに行った。

 今回の最大の変化は、「国家間の約束」を「企業間の契約」に変換したことだ。契約権限を持つCEOを物理的に北京に連れ込み、中国側のカウンターパートと直接交渉させたわけだ。

 今回は約束を反故にできないように、法的拘束力のある企業間契約に切り替えている。企業が契約すると履行モニタリングが伴い、履行されなければ中国企業は大きなペナルティを負うことになる。

 ボーイング200機の受注発表は、その氷山の一角に過ぎない。テスラの中国事業拡大、エヌビディアの半導体関連、アップルのサプライチェーン維持など、各社が何らかの「握り」をしてきた可能性は高いと見る。

 米CEO軍団の随行は、中国が得意とする「空手形」を「契約」に転換するという大きな役割があったわけである。

 さらにトランプ大統領は、単発の「取り立て」を超えた制度を作った。それが、二国間の投資・貿易委員会の設置である。

 中国はこれを「対等なパートナーシップの制度化」と呼んでいるが、実態は少し違っている。委員会は議題設定権を持ち、定期的な呼び出しや、履行状況の報告、検証の要求などが行える。習主席のトップダウンですべてが決まる中国において、アメリカが設計したこの仕組みは「いざというとき、習主席を牽制できる組織」として機能する。

 それに加えて、この委員会には官僚だけでなく、マスク氏やファン氏のようなプラットフォーマーが背後に控える。習主席は中国国内で、自分が議題を決め、いつ終わるかを自分がコントロールする。だが、二国間委員会ができた瞬間に、その特権は奪われるのである。「対等」という言葉を中国が強調すればするほど、実態との乖離が際立つ。

 トランプ大統領の対中外交は、これまでの「みかじめ料を請求する」から「みかじめ料を確実に集金する」に進化している。習主席がなぜこれほど不利になる合意に署名したか不思議だが、「妥協」と見るのが正しいのかもしれない。