神田は大家の林が「来来軒」に来店した時、ほとんど口を聞いたことがなかったのだ。林は浦和の林ベーカリーの社長で、周辺にテナントを30軒以上保有、多額の家賃収入で羽振りのよい生活を送っていた。村一番の貧乏家に育った神田にしてみれば、林は別世界に住む大金持ちであり、「しょせん、親しく付き合うことはない」と、反発していたからだ。

 神田は、こう答えた。

「店を続けたいのは山々ですが、お金が一銭もなくてできません」

 林は神田の答えを察知していたのだろう。

「お金がないのだったら私が保証人になって、100万円借りてあげよう!」(林)

 そう神田に告げたのである。

日高屋の目玉である年中無休と
深夜営業はこのとき生まれた

 神田は、生まれて初めて100万円という大金が入金された預金通帳を見て、人生観が変わった。とにかく、たったひと晩で、これまでのお金のない貧乏暮らしとは全く異なり、100万円のお金持ち、100万円長者に生まれ変わったのである。

 これだけの大金があれば、「来来軒」岩槻名店街2階の店は、「出前用の人材」を採用できる。これに加えて「深夜営業」に力を入れれば、「絶対に繁盛店にできる」と思った。

 神田はこの100万円を元手にして、“貧乏逆転人生”を歩き出すのである。

 神田は「来来軒」の再生方針を、次のように打ち出した。

・立地、場所の悪さは変わらない。この場所で最強の集客戦略を仕掛ける。
・出前用の電話を導入、サービス用の名刺、マッチ箱などを作る。
・2階の店の前に「ラーメン」と描いた大きな赤提灯を吊るす。深夜、1階からでも目立つようにし、ラーメン+居酒屋営業をしているのがわかるようにする。
・什器備品など体裁の良いものに揃え直す。
・来店されるお客様を精一杯おもてなしして、リピーターになってもらう。
・すぐ近くにある市役所に毎日御用聞きに行き、出前をする。
・飲食店経営を成功に導くQSC「Q=Quality」「S=Service」「C=Cleanliness」を徹底する。

 神田はまずは借金を返すために、万全の態勢を整えることに尽力した。具体的な行動指針は次のようなものだった。

[1年365日年中無休、朝10時~深夜午前2時まで営業する。朝は8時30分頃に店に出て、掃除、仕込みなどをやる。1日18時間から20時間労働。1人で2人分働く。平均睡眠時間は4~5時間とする]