毎日電話がかかってくる…
書面謝罪・損害賠償・個人名の開示要求
松本さんは、マニュアルには「エスカレーション基準」が記されていましたが、佐々木氏は女性で語尾は丁寧であったため「脅迫・暴言がある場合」という条件に該当するかどうかは判断が難しかったと語ります。
松本さんはすぐに上長に相談したものの、佐々木氏は過去にA社とのトラブルはなく、商品を多数購入していた履歴もあり「まだ話し合いの余地がある」とその場での対応継続を指示しました。
その後、佐々木氏は毎日松本さんへ電話をかけるようになり、「御社は非を認めた」という理由で書面謝罪・損害賠償金30万円・担当者の正式な氏名開示を次々と要求し、状況は悪化。上長が対応を代わったものの、状況が変わらなかったため顧問弁護士に相談。
対応を即刻中止すべきとアドバイスをもらい、「弁護士に相談している」と告げたところ、電話はぴたりとやみました。
しかし、松本さんはコールセンターで働くことに疲れてしまい、現在は離職しています。
どうすればよかったか?
悪化する前にすべきだったこと
A社の事例は、カスハラ対策を導入した企業が陥りやすい典型的な失敗パターンです。マニュアルがあることで「対応している」という安心感が生まれ、かえってエスカレーションの判断が遅れるというケースもあります。
法的観点から重要なのは、「謝罪」は必ずしも法的な過失の承認ではないという点です。カスハラの相手がそれを「過失の承認」として記録・証拠化しようとする場合は、安易な謝罪が後の交渉を悪化させてしまうことがあります。そこで、失敗事例を基に、カスハラ対策に詳しい細井大輔弁護士にお聞きしました。
――松本さんはカスハラ対応に疲れて離職してしまいました。このようなケースでは、どのようなタイミングで上長が対応を交代すべきだったでしょうか。
細井弁護士:本件のようなケースでは、30分以上にわたり電話が継続している時点で、早期に上長へ引き継ぐべきでした。長時間の対応は相手方の主張を助長し、要求のエスカレートを招くおそれがあるだけでなく、担当者にとっても心理的な負担が大きく回避すべきです。実際、長時間対応を続けることで解決に至るケースはほとんどありません。







