この「手挙げゲーム」を試しにやってみると、きっとなかなかうまくいかないはずだ。特に、0.2秒以内に交替するというのが大変だ。挙手が重なってしまうことも少なくないだろう。

 ちなみに、このゲームは3人以上でやっても構わない。「挙手していい人は1人」というルールだけ維持してもらえれば、3人でも4人でも、いっそ10人以上でやってみてもらってもいい。すぐドボンになることは想像に難くない。

 しかし補助線を1本引くだけで、僕たちの日常はこのゲームに早変わりする。そう、会話のターン交替だ。ルールにある「手を挙げる」を「発言する」に変えただけで、僕たちはこのゲームを難なくクリアできる。

「2人が同時に手を挙げる」は、発言の重複を指す。先のサッチャーの例もそうだ。発言がダブったら、一方がターンを譲って自然と会話が進んでいく(もちろん重複することもあるため、手挙げゲームは会話と完全にイコールとは言えない。念のため)。

「2人とも手を挙げない時間」とは、会話における沈黙を指す。なぜ0.2秒とキリの悪い数字になっているのか、不思議に思わなかっただろうか。これは200ミリ秒と言い換えることができる。200ミリ秒は、発話のターンが終了してから次の話者に移るまでの平均時間である。

 最後の「1人が手を挙げ続けていい時間は60秒まで」というのは、日常的な会話で1分以上、相手にターンを譲らず1人がしゃべることは珍しいからだ。ないことはないが、その場合は話者はそれなりに工夫をする。

 このように、僕たちが会話でスムーズに行なっているターンの交替は、よく考えれば不思議なことばかりだ。「順番の管理者」みたいな存在がなくても、僕たちは会話をリズミカルに紡いでいく。会話分析の研究者が最初に注目したのは、この「会話の順番交替」だった。

聞き手は無意識のうちに
会話の終わりを探っている

 1974年の論文(H・サックス、E・A・シェグロフ、G・ジェファソン著、西阪仰訳、S.サフト翻訳協力『会話分析基本論集 順番交替と修復の組織』世界思想社、2010)には、会話の順番交替に関するすぐれた洞察が載っている。端的に内容をまとめると、いつ、だれが、次の話し手になるのかを決める仕掛けが発話ごとにあれば、会話におけるスムーズな順番交替は可能になる、とのことだ。なんだか抽象的なので、こういうときは例を見るに限る。