だから、いつも私が死んだら開いてねと言っている携帯のメモの中に、希望要望を残しておこうと企んでいるのです。

認知症が進む母の指に
娘は赤いマニキュアを塗った

 ただ死化粧には難しい問題も含まれています。

 例えば最後にバタンと倒れたときに目の周りに大きな痣が出来てしまった、額に大きな傷が出来てしまった、など予測できないお顔の変化があるかもしれません。

 死後、発見されるタイミングが少し遅れてしまった場合、顔色が黒っぽくなってしまった、死因によっては黄色くなってしまった、赤くなってしまったなど、亡くなった方の顔はかなりの補正が必要な場合も多いのです。

 そしてときには、肌の状態がスポンジやパフに耐えられるのか、という問題が浮上することさえもあります。もし、死化粧の要望を出したとしても、それが全て叶うわけではありませんが、亡くなった人や遺族と初対面の納棺師にとっては、小さな要望でも、とてもありがたいヒントになることは間違いありません。

 納棺式でお母さんにマニキュアを塗ってあげた50代の娘さんがいらっしゃいました。認知症によって、日に日にお母さんがお母さんではなくなっていく様子を傍で見ているのはつらかったと話していました。ある日ふとした思い付きでお母さんの指にマニキュアをすると、お母さんがとても喜んでくれました。それは久しぶりの穏やかな時間だったそうです。それからは、定期的にお母さんの爪にマニキュアを塗ってあげていたようです。冷たくなったお母さんの指に赤いマニキュアを塗りながら、娘さんは、

「介護は大変だった。優しい気持ちになれないことばかりで、その時間がなかったらどうなっていたかわからない」

 と話していました。

 普段、どんなお化粧をしていましたか?の問いに即答できる遺族は実は少ないです。だけどどんな方だったのか、一緒に過ごした時間の思い出話の中からたくさんのヒントをいただきます。

「綺麗になった」よりも
納棺師がほっとする言葉

 最近メイクを一人で任されるようになった後輩納棺師が、あるお父さんのメイクをしていたときのこと。