こうした中、中国政府は「長護険」を独立した新たな「第六の保険」と位置付け、今後3年かけて全国民への適用を実現する計画だ。ちなみに、既存の5つの保険とは、養老保険(年金保険)、医療保険 、労災保険、失業保険 、出産保険である。
介護保険の分野において、これまで日中間の交流が頻繁に行われてきた。日本は2000年から先行した介護保険の設計や運用に関して、これまで中国の政府関係者が度々来日し、日本の官公庁や専門家らを訪ねて、ヒアリングや意見交換を行ってきた。
しかし、今回のその設計は大きく異なる。例えば、日本では40歳以上が保険料を負担するが、中国は18歳から対象となる。また、日本では主に65歳以上が給付対象となるのに対して、中国は全年齢。そして、保険料率は収入の0.3%程度に抑えられ、企業と個人が折半する仕組みである。
日本とは対照的
「強制徴収」への強い反発
本来ならば、高齢化社会を支える新制度の誕生は歓迎されるはずだ。実際、日本の介護関係者らに話を伺うと、2000年に日本で介護保険制度が始まった際には「家族介護から社会介護へ」という期待感が社会全体に広がっていた。高齢者世帯は「介護負担から解放される」と希望を抱き、介護事業者も「新しい巨大市場の到来」を見込み、社会全体が「介護の春が来る」という空気感が漂ったという。
ところが、今回の中国では、まったく違う風景だった。
制度発表直後からSNSは介護保険導入の話題で持ちきりとなったのだが、ネット上にあふれたのは歓迎よりも疑問や反発だった。
「くそ!また我々のお金をとるのか?」
「不合理だ!これは任意であるべきで、強制的に給料から引くべきではない」
「税を徴収するときは一言もなく強制的で、いざ使うときはハードルが高く、結局使えないだろうな」
こうした声が圧倒的に多かった。制度そのものへの理解と認識が不足しているというより、むしろ政府への根深い不信感がある。
「一人っ子政策」のつけと
若年層の不満
特に多かったのが、「一人っ子政策」をめぐる不満だ。中国では1980年代から36年間にわたり厳格な「一人っ子政策」が実施された。
当時、政府が掲げた「只生一個好、政府来養老(子どもは一人でよい、老後は国が面倒を見る)」というスローガンが長年にわたって世間に浸透してきた。現在でも一部の農村部ではその標語が掲げられたままだ。
しかし、その「一人っ子」世代の親たちは、自らも高齢者となりながら、さらに上の世代の介護を抱えている人も多い。一方、子ども世代は一人で複数の親や祖父母を支えなければならない。にもかかわらず、今回の「長護険」では、一人っ子家庭への特別な配慮は示されていない。国民は当然「国は約束を反故にしてはならない」と怒りが噴出しているのである。
そして、目立つのは若者や中年層の反発だ。中国国内の専門家は「今の経済不況が大きな原因である」と分析している。
中国は長引く景気低迷で、失業や就職難が深刻化し、人々は将来に対して大きな不安を抱えている。そこへ新たな保険料負担が加わると、「また強制的な支出が増えた」という感覚に繋がる。
特に若い世代の間には、「自分は定年までずっと先なのに、なぜ今から何十年後の介護費用のために支払わなければならないのか?」「例え使う時になってもきっと認可されないだろう」という疑問や反発が強いのだ。
もともと近年、経済の低迷で生きづらいと感じる若者が増えている。一方で、都市部の高齢者は年金で悠々自適な生活を送っている。「高齢者の年金は自分たちの給料より高い」と不満を漏らす若者も多く、若者と高齢者の対立・分断が深刻化している。こうした状況下で、高齢者のために血税を納めることに、特に若年層は強く抵抗しているのである。







