厳しすぎる給付条件に失望
介護事業者も冷めている

「自分たちの親の介護が必要になったときに助けになるだろう」という期待の声も聞こえてきそうだが、実は、今回の「長護険」の給付条件はかなり厳しい。

 対象となるのは、日本の要介護4~5に相当する「重度要介護者」で、しかもその状態が6カ月以上継続する場合。中国の専門家によれば、実際に給付を受けられるのは高齢者全体の2~3%程度にすぎないという。

 つまり、多くの人にとっては、「長年保険料を払い続けたとしても、自分は恩恵を受けられない可能性が高い」という不満があるのだ。

 そして、周知の通り、中国は地域により経済の格差がすさまじい。都市部と内陸の農村部の高齢者の生活状況には天と地の差がある。

 現在、内陸農村部の高齢者の基礎年金は毎月約130~300元(約2860~6600円)で、都市部平均の10分の1以下。中国社会科学院が発表した「2024年中国農村高齢者ケア状況調査報告」によると、農村部の高齢者の約8割が基本的な介護サービスを受けられない状況にある。

 そのため、今回の「長護険」は、国は要介護認定基準、保険料率、サービス内容等について「全国統一基準」を図るが、現実には地域格差を埋めることは容易ではない。

 一方、本来なら制度創設を歓迎しそうな介護事業者の反応も冷静だ。

 中国ではすでに約10年間、各地で試験導入が行われてきた。そうして決められた給付水準は日本よりかなり低く、3~5割となり、事業者側の利益も限定的だからである。筆者の周囲の介護施設経営者たちも「ないよりはまし」と語る程度で、大きな期待感は見られなく、熱狂や高揚感はまったく感じられなかった。

医療の失敗が
介護でも繰り返される?

 筆者の知人で中国の福祉専門家は、「長護険は、社会全体が高齢社会を支えるための大きな一歩として評価すべき」としながらも「今の医療現場を見ればわかるように、最大の課題は公平性と透明性だ」と指摘する。
 
 実際、中国では医療資源の格差や不公平さが長年放置されてきた。高級幹部のような一部の「上級国民」は在職中でも退職した後も、医療費は上限なしで全額保障され、広い個室で入院できる。

 一方、一般市民は“入院できない、費用が払えない、十分な医療を受けられない”という現実に直面する。大都市の病院では、病床不足でガン患者も含めて廊下の簡易ベッドで寝かされる光景は珍しくない。
 
 こうした状況から、人々が懸念しているのは「長護険」も医療と同じ問題が起こるのではないかということだ。国に対する不信が払しょくされていない。

「長護険」の設立は中国の社会保障制度の大きな進歩であるが、制度を運営するためには公平性、透明性、そして何より国民の政府に対する信頼が不可欠である。その意味で、中国の「介護社会化」への道のりは、決して平坦ではない。

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