不健康な働き方に気づき、本来のニーズに立ち返ってみる
私たちの仕事や生活が、社会構造や経済情勢の制約を受けてしまうことは避けられないだろう。それでも、働く人々が自分を見失わずに生きていく方法はあるのだろうか?
村上 まずは、「異なる価値の在り方」に気づき、自分の欲望を見つけていくことだと思います。企業を中心とした競争社会のなかで、誰もが、多かれ少なかれ、競争に巻き込まれていきます。そのなかで、「勝つことにしか価値がない」と単線的に考えず、「異なる価値があっていい」と知るだけでも、楽になるのではないでしょうか。
実際に、若い世代のなかには、大企業に入るよりも自分のやりたいことを軸に進路を選択する人が出ており、私個人の考えとしては、それは良い傾向だと思います。会社勤めを否定するつもりはありませんが、いままでのように人々が常に競争にあおられ、ブラック企業や過労死がたびたびニュースになるような状況は明らかに異常でした。
そこまで極端でなくても、たとえば、東京では、高い住居費や子どもの受験費用を払うため、多くの人が長い通勤時間をかけて働きに行くことがスタンダードになっています。こうした状態は、健康的といえるでしょうか? 現代社会のゆがみに気づき、一人ひとりが本来のニーズに立ち返ることが、生きやすさにつながるカギだと考えます。
村上教授は近著で「傷つくこと」「傷つけること」をテーマに思索を展開している。近年、職場における「心理的安全性」という言葉が注目され、社員が安心して働ける環境やチームづくりに取り組む企業も増えている。では、「人を傷つけない組織の在り方」とはどのようなものだろうか?
村上 組織に属する一人ひとりの権利が保障されるべきで、権利の侵害が起きないような環境をつくれるといいですよね。具体的にポイントを挙げるなら、第1に「組織のなかで嫌な思いをした人が声を上げられる」こと。そのためには、普段から気軽に雑談をするなど、コミュニケーションが取れる関係性が必要です。
第2に、「暴力への対処」も課題です。最近はさまざまなハラスメントが認知され、暴力に対する感度が上がっています。その分、さまざまなタイプの暴力が見えてきて、よりきめ細やかな対応が求められていると思います。
安全・安心な環境が保たれていなければ、休職者が出るなど、必ず何らかのシグナルが現れます。それを「あの人はうつっぽいから」などと個人の事情で片付けてしまうのではなく、組織の安全が脅かされているサインだと捉えて、人間関係やマネジメントを見直していくことが大切です。








