
グローバル化の進展や産業構造の変化、少子高齢化などによって目まぐるしく変わる社会情勢を背景に、働く人一人ひとりが自らの生き方を問い、主体的にキャリア形成をしていく「キャリア自律」や「キャリアオーナーシップ」に注目が集まっている。その大きな流れのなか、大学では、2000年代半ば頃から「キャリア教育」がさかんに行われるようになり、学生たちに早いうちから将来の働き方を考えさせる取り組みが広がってきた。これまでの間で、大学や学生たちの意識はどう変化してきたのだろうか。また、大学を出て間もない若手社員を迎える企業には、どのような対応が求められているのか。法政大学キャリアデザイン学部の児美川孝一郎教授に聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)
目の前の就職か長期的なキャリア設計か、分かれる大学の対応
現在、国内の大学では卒業後のキャリアを設計する授業やセミナー、インターンシッププログラムなどを通じて、学生たちへの「キャリア教育」が行われている。これは、2011年の大学設置基準の改正によってキャリア教育の実施が義務付けられたためでもあるが、そこに至るまでに、どのような経緯があったのだろうか。
児美川 大学でのキャリア教育は2000年代半ばからさかんに行われるようになったのですが、そこには、国の政策と連動して、いくつかの節目がありました。第一の節目は、2007年に、文部科学省が大学教育改革の一環で実施していた「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」や「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」という補助金事業の対象にキャリア教育が加えられたこと。その頃から、キャリアに関する科目を設けたり、企業と連携してインターンシッププログラムなどを実施したりする大学が増えていきました。そして、2011年の大学設置基準の改正が第二の節目となり、キャリア教育が本格化。その後、最近の目立った動きとしては、2022年に、文部科学省・経済産業省・厚生労働省による、いわゆる「3省合意」でインターンシップの定義が見直されています。それにより、大学3年生以上を対象に、5日以上の実習があり、かつ、半分以上の日数を実務経験に充てるもののみを「インターンシップ」と呼び、2年生以下が参加する研修や「1dayインターンシップ」などは、あくまでもキャリア教育の一部として区別されました。これがキャリア教育を巡る、この20年弱の大まかな動きです。
児美川教授によると、大学におけるキャリア関連の科目やプログラムは、全学共通科目や一般教育科目に位置付けられるケースが大半だが、学習指導要領のような統一基準がない大学においては、その中身がまちまちのようだ。
児美川 私は以前、厚生労働省の事業の一環で全国の大学のキャリア教育を調査したことがあるのですが、キャリア教育には大きく3つの型があります。1つ目は「就職支援直結型」で、就職活動にすぐに役立つようなスキルを身につけさせるもの。2つ目は「キャリア教育型」で、これは、仕事に限らず、将来の生き方を広く視野に入れながら、どんなキャリアを歩みたいのかを考えさせる内容。そして、3つ目は、両者を少しずつ取り入れた「中間型」です。3つのうちのどれを取るかは各大学の事情によります。就職実績を売りに学生を集めたいところは、必然的に、目の前の就職支援に注力しますし、そこまでしなくても学生が集まる人気校は、キャリア設計にじっくり取り組ませる傾向があります。
ただ、「人生100年時代」という言葉が日常的に使われるようになって、働き方が多様化したいまは、仕事における目標にフォーカスした「ワークキャリア」を考えるだけでは十分ではないことに多くの人が気づき始めています。全体的に、大きな人生設計のなかにキャリアを位置付ける「ライフキャリア」に軸足がシフトしてきているのは確かでしょう。

児美川孝一郎 Koichiro KOMIKAWA
法政大学 キャリアデザイン学部教授
東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。法政大学社会学部非常勤講師、文学部助教授などを経て、2007年より現職。専門はキャリア教育、教育政策。日本教育学会理事。日本教育政策学会理事。著書に『夢があふれる社会に希望はあるか』(KKベストセラーズ)、『自分のミライの見つけ方』(旬報社)、『キャリア教育がわかる』(誠信書房)など。