無自覚の加害性がハラスメントを生んでいく
職場では、上司が「指導」のつもりでとった言動を、部下は「ハラスメント」と受け取ることが起こりうる。こうした認識のずれは、どうしたら解消できるのだろう?
村上 経営者や管理職など、職場で力のある立場の人ほど、意識的に倫理の基準をアップデートしていく必要があります。若い世代は暴力に敏感で、人権の問題として真剣に受け止めているのに、中高年の上司がその深刻さをわかっていないことが、まさにさまざまな問題を引き起こしているからです。
私たちのような研究機関でも、「マイクロアグレッション(*1)」「マジョリティ特権(*2)」「インターセクショナリティ(*3)」「認識的不正義(*4)」など、コミュニケーションにおけるかすかな暴力に関する語彙は、ここ10年で一気に増えました。
比較的に恵まれた環境で社会になじんで生きてきた人は、自分の何気ない言動が他者を傷つける可能性になかなか気づけないものです。セクシュアルマイノリティの問題もそのひとつの例で、私自身も一昔前にはシスジェンダーの男性の立場から、いまなら許されないような冗談を言っていた記憶があります。しかし、「育ってきた時代が違うから、気づかなかった」という言い訳は通用しません。年長者は特に、若い世代をはじめ、自分とは違う環境で生きてきた人から意識的に学ぼうとする姿勢が必要だと思います。
*1 マイクロアグレッション(小さな攻撃性):無意識の偏見や知識不足から、相手を傷つけてしまう差別的言動
*2 マジョリティ特権:多数派に属する人が、無自覚なままに享受している社会的な有利さや恩恵のこと
*3 インターセクショナリティ(交差性):人種や性別、階級など複数の差別の軸が重なり合い、複合的な不利益が生じるという考え方
*4 認識的不正義:当事者の見識や発言が、性別、国籍、年齢、障がいへの偏見によって過小評価される状況を指す概念
同じ言動でも、人によって受け取り方はさまざまだ。組織内に、特に繊細で傷つきやすいメンバーがいたとしても、それを「個人の性格の問題」として片づけるべきではないと村上教授は言う。
村上 ある話を10人が聞いて、9人は何とも思わず、1人だけが傷ついたと答えた場合、傷ついた人がいる以上、そこに倫理の線があると考えます。傷ついた本人も含めて、私たちは何かと問題を個人化してしまいがちですが、個人をターゲットにしても何も解決しません。
女性がとりわけハラスメントを受けやすい組織があったとして、ハラスメントが起きるのは女性個人のせいではないですよね。「傷つきを生むような組織構造があるのではないか?」という視点で環境を見直さなければ、根本的な解決にはならないのです。また、傷ついた1人が守られることは、組織全体にとっても安全性が高まったといえるはず。女性が大切にされない組織では、女性たちは辞めていくでしょうし、組織のレジリエンスという点でも、問題を個人化したり、放置したりすることはまったく得策ではありません。








