日本でも「ブラケット・クリープ」問題
未調整のインフレによる税負担増「1.9兆円」

 所得税では、物価上昇に伴って名目所得が増えると、実質所得が増えなくても税負担が増えることがある。累進税率の上位区分に入ったり、基礎控除や給与所得控除など定額で定められている控除の実質価値が低下したりするからだ。

 このように、税率そのものが引き上げられたわけではないのに、物価上昇によって実質的な税負担率が上がる。この現象は「ブラケット・クリープ」と呼ばれる。

 日本でどの程度のブラケット・クリープが生じているかについては、試算がある(注1)。そこでは、2019年から25年の期間について、税制がインフレに対して十分に調整されなかったことによる負担増が試算されている。

 この試算によれば、25年時点で未調整の負担増は年1.92兆円程度にのぼる。これは、25年度の所得税収見通し約22.7兆円の約8.5%に及ぶ額であり、決して小さくない。

 インフレは家計の購買力を低下させるだけでなく、税制を通じて政府の取り分を増やす効果も持っているのだ。

2024年の「岸田定額減税」にも
「隠れた増税」還元の性格があった

 この問題は、少し前にも議論になった。

 24年、当時の岸田政権は、6月から1人当たり4万円の定額減税を行った(内訳は所得税3万円、個人住民税1万円)。納税額が少なく減税しきれない人には、調整給付によって対応した。

 岸田首相は、過去2年間で所得税と住民税の税収が3.5兆円増えたと説明し、「税収増を納税者にわかりやすく税の形で直接還元する」と減税の趣旨を語った。所得減税と給付は、総額5兆円規模となった。

 この措置は、24年分の所得税と個人住民税を対象にした一回限りの措置だった。しかし、減税しきれない人に給付で対応するという点では、給付付き税額控除に近い発想を含んでいた。

 また、これはあくまで応急的な措置であった。インフレによる税負担増に対して一時的に還元を行ったにすぎず、税制そのものを物価上昇に中立的な仕組みに改めたわけではなかった。