
与野党で導入機運が高まる給付付き税額控除(負の所得税)は、最低所得を実質的に保障しつつ就労インセンティブを損なわない“自動安定化装置”だ。基礎控除拡充などの一律減税よりも低所得層に資する再分配を実現し、行政のデジタル化とも親和性が高い。日本版の設計案と導入課題を具体的に検証する。(昭和女子大学特命教授 八代尚宏)
給付付き税額控除は
「負の所得税」
給付付き税額控除の導入について野党間の合意形成が進んでいる。これは自民党の総裁選でも主要な候補者が掲げているが、明確な反対論はなく、仮に実現できれば日本の社会保障制度にとって画期的なことになろう。この聞き慣れない専門用語は、一定の所得水準以下の世帯に、その勤労所得に応じた税金から一定額を控除する。その際に定額の控除額よりも納税額の方が少なければ、その差額を還付・給付する単純な仕組みである。これは限られた税源を、最低所得を保障するために用いる制度である。
これは左派の野党が言い出したもので、それを右派の自民党が受け入れるのは敗北だという人もいるが、それはまったく正反対の誤解である。
この「負の所得税」とも言われている制度を最初に提案したのは、新自由主義の象徴的存在であるミルトン・フリードマンだ。よく、新自由主義者は「政府は何もしなくてよい」と主張しているとの誤解があるが、そうではなく、「政府による恣意的な市場介入」をすべきではないと言っているのだ。
次ページでは、その意味するところを解説するとともに、給付付き税額控除の具体的な仕組みの提案をする。