歌人・俵万智さん歌人・俵万智さん Photo:SANKEI

「この味がいいね」と君が言ったから――。国民的ベストセラー『サラダ記念日』に収められた有名な一首は、実は7月6日の出来事でもなく、サラダを詠んだ歌でもなかった。歌人・俵万智さんは、恋愛の短歌では体験を“加工”することが大切だと明かす。一方で、子育ての短歌は事実をそのまま詠んでも成立するという。テレビ朝日系『夫が寝たあとに』(毎週火曜 深夜0時15分~ ※一部地域を除く)と俵万智著『みんなの短歌』(マガジンハウス)から、短歌の魅力と「育児短歌」をすすめる理由を紹介する。※本稿は、テレビ朝日「夫が寝たあとに」と歌人の俵万智『みんなの短歌』(マガジンハウス)の一部を抜粋・編集したものです。

サラダでもなければ
7月6日でもなかった!?

 20代、30代の頃は、恋愛の歌を多く詠んでいました。

 恋愛は短歌と相性のよいテーマのひとつですから、1300年以上ある短歌の長い歴史のなかでも、数多くの恋愛の歌が詠まれてきました。だけど恋愛の短歌には、ちょっとしたコツが必要で、事実をそのまま歌にしても様にならないことが、往々にしてあるのです。

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
『サラダ記念日』

 実は、私が詠んだこの歌のきっかけとなったできごとは、7月6日に起こったのではなく、作った料理もサラダではなく、鶏のからあげでした。要するに、体験したことや感じたことを、それなりに加工しないと第三者には伝わりにくいのが、恋愛の歌なのです。

 40歳のときに子どもを授かって以降は、自然と子育ての歌が多くなってきました。

 子育ての場合は、事実をそのまま歌にしても、不思議なほどにしっかりと成立します。一番の理由は、何といっても「かわいいから」でしょう。

 ドラマなどの世界では、どんなに大人が頑張っても「子どもと動物には勝てない」とよくいわれますが、存在そのものが純粋で愛おしいので、こちらが手を変え品を変え、整える必要がない。そういう意味でも、子育ては短歌の初心者にとって、とても取り組みやすいジャンルといえるでしょう。