もしかして……僕は拡大せずにはいられなかった。
フェルナンデス家の居間 Courtesy of Bill Fernandez
やはり、3つとも見覚えのある川瀬巴水の作品だった。
「すっごい!」思わず声が出た。
巴水展の図録で確認すると、左から右へ、「日光街道」、「奥入瀬之秋」、それに「赤目千手瀧(あかめせんじゅたき)」であることがわかった。
ジョブズの美的センスの
原点に触れるようでゾクッとした
川瀬巴水「赤目千手瀧」(1951・昭和26年) 版元:渡邊木版美術画舗
3つのうち、「赤目千手瀧」は、ジョブズが日本で松岡さんに注文した作品のリストにも入っている。三重県の西部にある赤目四十八滝の1つを描いたもので、滝と紅葉が写実的に描かれた美しい作品だ。
ただ、本来なら水面に映るはずの紅葉の影がない。専門家によると、不必要な要素を削ぎ落とし、よりシンプルにすることで、奥に見える滝の躍動感を出しているという。こうした削ぎ落としの美は、いかにもジョブズの好みだと思える。
彼が目にしていた巴水の作品がそこにあった。自分の取材に確信を得た瞬間だった。
このフェルナンデス家の写真がもつ意味は、おそらく、自分だけしか知らない……。ジョブズの知られざる世界に踏み込んでいくようでゾクゾクッとした。
ジョブズはなぜ新版画を好きだったのか、それまでの取材では、それがわかる具体的な発言や場面を見つけることができないでいた。







