村上ファンドやスティールが「虚業」と呼ばれるのは、経営に参画して額に汗して働くことなく短期の会社ころがしで利益をあげる「転売ヤー」だからですが、その転売先の目のつけどころの確かさはファンドマネージャーの重要なスキルです。

 プレミアム付きの高い値段を出して会社を買い取れる投資家といえば、シナジーを生み出せる戦略投資家、多くの場合それは同業ライバル他社や隣接業界から参入を目論む企業、でしょう。

 村上世彰氏は阪神株式を買い集めるにあたり京阪電車との統合による関西私鉄業界の再編を考えていたと言われています。神戸から大阪を結ぶ阪神と大阪から京都を結ぶ京阪を統合して神戸から京都までを一気通貫でつなぐ路線の誕生は、同じく神戸から京都までの路線を持つ阪急電鉄にとり脅威になります。

『会社の値段[新版]』書影会社の値段[新版](森生 明、筑摩書房)

 これこそ、阪急ホールディングスがプレミアム付きの値段を払ってでも阻止したかったことなのかもしれません。

 逆に、阪急が元々阪神を買収して業界再編したいと思っていたが、正面からそれを阪神に申し入れても拒絶され敵対的買収になる、それを察知した村上ファンドが市場で株を買い集めて支配権を取れる塊にしてあげたのであって、400億円という村上ファンドの儲けはその汚れ役を引き受けた対価ではないかという穿った見方もあります。

 敵対的買収者というと乗っ取り屋的でブラックな印象がある中、村上ファンドは悪党役をあえて演じてみせ、悪党に襲われたお姫様を助ける「ホワイトナイト(白馬の騎士)」という正義の味方役に阪急を仕立ててあげたという深読みです。

 真偽のほどは定かではありませんが、不動産開発会社が地域住民の土地を買い集めるために「地上げ屋」を使うのになぞらえて、これらのファンドを「株の地上げ屋」と呼ぶ人もいました。