
年々、さまざまな企業で深刻になる人手不足を背景に、多くの企業が採用活動を前倒しし、学生の就職活動が早期化している。その一方、日本経済新聞の調査では、大手企業で採用計画に占める中途採用比率が5割を超え、また、国のデータでは、入社3年以内に3割の新卒社員が退職する状況が30年以上も続いている。人材の流動化は、社会全体としては人的資源の再配置と個人のスキルアップといった好ましい面もあるが、個々の企業においては採用コストの上昇や人材への投資ロスという好ましからざる面もある。立教大学経営学部の舘野泰一准教授に、最近の学生の傾向、トランジションにおける企業と学生の認識のギャップ、それを克服するための視点と取り組みのヒントなどについて話を聞いた。(ダイヤモンド社,人材開発編集部、撮影/菅沢健治)
「自分の強み」や「自分への期待」を知りたがる学生
少子化による学生数の減少などを背景に、新卒採用は、企業が学生を選ぶ時代から学生が企業を選ぶ「売り手市場」に変わっている。複数の内定(内々定)を持つ学生が増え、企業は内定辞退防止のための方策を必要としている。また、入社後の早期離職も防いでいかなければならない。
立教大学経営学部の舘野泰一准教授は、10年以上前から同学部独自の「ビジネスリーダーシッププログラム(以下、BLP)」の主査を務め、学生の意向や行動に詳しい。
そのBLPでは、上級生が下級生をサポートする「学生スタッフ」としてさまざまな役割を果たし、毎年、多くの応募があるという。そんな学生たちの様子から、昨今の学生たちの価値観や姿勢がうかがい知れる。
舘野 立教大学経営学部には、毎年380名ほどの学生が入学し、「ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)」を必ず受講します。このプログラムでは、経営学の理論などと併せて、連携企業の経営課題に対する提案をまとめるといった実践的な授業を行います。
良い提案を作るためには、授業に出席するのはもちろんのこと、授業時間外にもグループワークを行う必要があります。いまの大学生は、私たちが大学生だった頃とは比べものにならないくらい、毎日忙しい日常を過ごしています。そんな忙しい日常を過ごしている大学生ですが、「自分のこと」だけに集中しているわけではなく、「人のため・周りのため」に頑張りたいと行動する姿が印象的です。
BLPでは、下級生の授業に「学生スタッフ(=上級生)」が授業のサポートに入ります。この「学生スタッフ」という役割は、学生たちに人気があって、毎年120名の枠に対して、学部の過半数を超える200名近くの応募があります。応募の理由はさまざまですが、「昨年、自分が先輩によくしてもらったので、後輩にもそうした経験をしてあげたい」「自分も憧れの先輩のようになりたい」といった理由がよく挙げられます。大学生が何かを頑張るモチベーションとして、「人のため(恩返し)」や「身近なロールモデルの存在」は大きな影響を与えているように感じます。
大学生にとっては、頑張ることの意味・意義が大切になっているのだと思います。学生スタッフになった後にも、「なぜ、自分が選ばれたのか?」「自分に期待することは何か?」を必ず聞きにきます。以前は、その回答を個別に行っていたのですが、最近は、「みんなの前で話してほしい」と言われるケースが増えました。私が一人ひとりに伝えることをみんなが客観的に聞きたいようです。
採用された「学生スタッフ」は、授業のスライド作成チームやワークショップ準備チームなどに分かれます。その配属は、第1希望から第5希望まで聞いたうえで割り振るのですが、「なぜ、自分がその役割なのか?」を聞いてくる学生が結構います。以前に比べ、「自分の強みは何か?」「自分は何を期待されていて、それにどう応えればいいのか?」を知りたがる学生が増えたと感じています。

舘野泰一 Tateno Yoshikazu
立教大学経営学部/大学院経営学研究科 准教授
1983年生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。企業・教育機関におけるリーダーシップ教育の研究・実践を行っている。著書に『パラドックス思考:矛盾に満ちた世界で最適な問題解決をはかる』(ダイヤモンド社)などがある。企業入社内定者向けフォローツール『フレッシャーズ・コース』(ダイヤモンド社)の「トランジションの乗り切り方」コーナーを執筆している。
最近は、「配属ガチャ」「上司ガチャ」という言葉を耳にするが、その背景には、「自分にはどのような仕事が向いているのか?」「自分には何が期待されているのか?」という、学生の疑問や漠然とした不安があるのではないか。自己理解と他者評価に対する欲求が強まっているように思える。
舘野 そうですね。周りが自分に何を期待しているのか、自分がその仕事を行う意義は何かを理解したいという気持ちは大きいと思います。その分、意義を理解してくれると、非常に真面目かつ意欲的に取り組んでくれます。
一方で、真面目に取り組んでくれる分、オーバーワーク気味になっていないかに注意することが必要です。意義を理解し、真面目に意欲的に取り組んでくれる優秀な学生ほど、人に頼れないのです。人に頼らず、自分で仕事を全て抱え込んでしまうと、本人も辛いですし、チーム全体にとってもパフォーマンスが下がってしまうことがあります。しかし、自分でその仕事の意義を感じ、期待を感じて真面目にやりたいと思うからこそ、なかなか人に頼ることができなくなるのです。
BLPではグループワークを繰り返し行い、その都度、お互いに「どこが良かったか」「どこを直せばいいか」を指摘し合います。自分が抱え込み過ぎていることは、周りからのフィードバックがないとなかなか気づきません。みんなのために良かれと思って抱え込んでいる学生は、「助けを求めてくれないので協力しにくかった」という声を聞いて驚き、ようやく、「困ったときは自分一人でやらなくてもいいのだ」と理解するようになる。周りに頼ることへのハードルが下がり、また、自分からフィードバックをもらいに行くことが自分の成長にとって大切なことだと気づくのです。
大学で「人に頼ることの意義ややり方」を理解できる機会があれば良いのですが、そのような機会がなかった学生が企業に入ると、オーバーワークになってしまうこともあるのではと思います。関わる側の視点としては、仕事の意義や意味を伝えることと同時に、期待に応えようと抱え込みすぎないようにするバランスが大切だと感じます。








