学生、大学、企業側のそれぞれの課題は何か?

 舘野准教授の専門はリーダーシップ教育だが、ワークショップ開発、越境学習、大学生から社会人への「トランジション」についても研究を続けている。

 「トランジション」は一定の状況から別の状況への移行や変化を指す。「トランジション研究」でネット検索すると、持続可能な社会経済システムへの転換(移行)を対象とする研究も出てくるが、それとは別に、大学から社会へと、学習者が教育段階や環境をまたいで移行する過程を対象とする研究分野がある。 

 舘野准教授は、その研究分野において、若手社員の育成や入社前教育として、教育機関でのどのような経験が重要か、といった見識を持っている。

舘野 「学校から仕事・社会へのトランジション」の研究は、近年、より重要性が増してきている研究分野です。従来は大学時代に文系だったか理系だったか、どのような専門分野を学んだのか、偏差値はどれくらいだったか、といったハードな側面と、その後の年収などとの関係に着目していました。

 しかし、近年では、大学でどういう学び方や経験をしているのかを調査し、そのような経験をした大学生が、企業に入社後に組織に適応しているのかどうかを検証する、といったかたちで、より経験に踏み込んだ研究が増えてきています。

 私自身も、「学校教育を終えて仕事に就く若者が、働き始める前に、仕事や組織のリアルをアクティブに体感し、働くことへの準備を行うこと、および、その結果として、教育機関から仕事領域への円滑な移行を果たすこと」をテーマに研究を続けています。私はこれを「アクティブトランジション」と呼んでいます。

 企業の環境変化が進むなかで、いかに円滑な移行を支援するかは非常に重要なテーマであると感じています。

 トランジションは、企業側にとっては、採用活動と切り離せない問題だ。優れたパフォーマンスを発揮してくれそうな学生を採用し、トランジションに成功したうえで、長く活躍することを期待しているからだ。そうしたなか、「人材を輩出する大学と受け入れる企業の認識にギャップがあるのではないか?」と、舘野准教授は言う。

舘野 トランジションを支援するためには、大学側の努力も必要ですが、大学と企業、双方がお互いを理解する努力も必要です。

 現在の、大学や大学生を取り巻く環境は、我々自身が大学生だった頃とは大きく変わっています。しかし、さまざまなところにまだギャップがあるように感じています。

 たとえば、その一つが採用スケジュールです。就職活動の早期化に伴い、インターンシップや面接が大学の授業とバッティングすることが増えています。いまの大学では、授業の出席は単位取得のために必須であり、学生は、「就活を優先するか、単位取得を優先するか」に悩んでいます。学生本人から「どうしたらいいですか?」と相談を受ける教員もいます。授業のない夜間や日曜日での採用面接など、スケジュールが柔軟になれば、学生・大学側と企業間の相互理解ができるでしょう。

 もちろん、企業側の論理も理解できますし、そもそも、企業が大学や大学生の現状を把握するのが難しい現状もあると思います。

 しかし、企業と同様に、大学や大学生を巡る現状も変化しています。お互いが大学生の円滑な移行を支援するためには、相互に変化を理解する機会を持つことは大切だと感じます。

 一方、学生は、小・中・高校での教育の影響もあって、「何事にも正解を求める」傾向がある。しかし、ビジネスの現場では「正解のない問題」がほとんどであり、大学は、授業などを通じて、そのことを学生に理解してもらう必要がある。

舘野 教育機関においても「正解のない問題」に取り組む機会は少しずつ増えてきています。私たちのBLPにおいても、正解を求めることよりも、挑戦やチャレンジすることを重視しています。ただ、学生たちのマインドがすぐには変わらないのは事実です。たとえば、教員や先輩がフィードバックした内容が、そのままビジネスプランのアイデアとして取り入れられてしまうということがよくあります。フィードバックは一つの視点なのですが、どうしても目上の人に言われると「それが正解」と思ってしまうのです。あくまでも、それらを素材として、自分の頭で考えて活用することが大切ですが、それができるようになるためには何度も経験を重ねることが大切です。自ら経験をして、その経験を振り返ることで、ようやく少しずつ新たな考え方や態度を身につけることができます。

 こうして身につけた力は企業に入社してからも活用できると考えられますが、環境が変われば、またその環境に合わせて学び直す必要もあります。たとえば、大学時代は当たり前のようにもらっていたフィードバックは、企業に入社してからは自分からもらいにいく姿勢が必要になるかもしれません。フィードバックをもらう機会を作ることを学ばないと、フィードバックを活用するという大学の学びが生きないのです。

 このように大学での学びを活かしつつも、常にその環境に合わせて学び続ける姿勢が大切です。「大学で学んだことは役に立つか、立たないか?」と二者択一で問う必要はありません。使えるものは使いつつも、必要なことを学び続ける姿勢そのものをいかに大学時代に身につけてもらうかを意識しています。