そりゃ株価もブチ上がるわ…カリスマ社長がひた隠しにする「とっておきの秘策」【マンガ】『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第71回では、TOBを仕掛けられた企業の「最強の防衛策」について解説する。

買収難航に焦るライバル企業

 新興上場アパレルメーカー・T-BOXの生産部門を統括する片岩八重子(ヤエコ)は、秋田の自社工場にこもり、特許出願中の極細ファスナーの製品化を進めていた。T-BOXの創業社長である花岡拳も東京本社から秋田に飛び、そんなヤエコを見守るのだった。

 T-BOXのトップである花岡が技術開発に注力するのには訳があった。大手商社である一ツ橋商事がT-BOXの敵対的TOB(株式公開買い付け)に向けて着々と準備を進めていたからだ。

 ファスナーの製品化が成功すれば、T-BOXの株価は飛躍的に高騰する。そうなれば、一ツ橋商事の株取得コストは当然上がり、TOBの計画は頓挫することになる。花岡は「株価の高騰維持。これこそが最強の買収防衛策なんだ」と語る。そして苦闘するヤエコを思い「ヤエコならやってくれる。今は信じて待つ…」と祈るように語るのだった。

 一方、一ツ橋商事の井川泰子は、焦りを禁じ得ない。買収資金の調達状況をM&A担当の西田に詰め寄るも、自社広報から、買収がネガティブなブランドイメージをつける可能性があるとして、難色を示していると説明を受けるのだった。

あまりにシンプルな「最強の買収防衛策」

漫画マネーの拳 8巻P193『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 一般的に「敵対的TOBへの防衛策」というと、過去に紹介したホワイトナイト(友好的な第三者による買収や出資)をはじめとした、いかにも専門的な手法を思い浮かべるかもしれない。

 だが、花岡が選んだ防衛策は、もっと単純で、もっと本質的な方法だ。つまり、TOBの対象となっている企業の株価を上げることである。

 TOBは、買い手企業が対象企業の株主に対して「プレミアムをつけた価格で株を買います」と呼びかけるところから始まる。株価が市場価格より高くなるからこそ、一般株主が動く、つまりは株式を売る動機が生まれるわけだ。

 しかし、対象会社の株価が急騰するのならば話は別だ。一般株主は株を保有し続けるか、TOBで提示された価格以上で市場で売るか…とそろばんをはじき出す。

 それでも買い手企業がTOBを継続するのであれば、株主を動かすためにさらに高い価格を提示しなければならない。だがそれは、当初見込んでいた投資での採算を崩しかねない。

 ここで1つ重要なのは、花岡は小手先の株価対策をしているわけではないということだ。株価を上げるための「工作」に走るのではなく、新型ファスナーの製品化という、アパレルメーカーとしての本質的な企業価値の向上を愚直に進めているのだ。

 そしてその結果として株価が動いたというだけの話とも言える。奇策を巡らすのではなく、ものづくりの現場を信じることこそが、最強の防衛策となりうるという話である。

 自身のTOBに協調するよう仕向けたT-BOXの古参社員からの連絡も拒絶された井川。だがファスナーの製品化が成功したT-BOXの株価がストップ高となり、TOB自体を取り下げざるを得ない事態に追い込まれるのだった。

漫画マネーの拳 8巻P194『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 8巻P195『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク