三つのずれに、共通する構造
ここまでブランドとCXの一体化を妨げる三つの認識のずれを並べてきました。「組織を変えればいい」「ブランディングは不要」「ブランドは企業の約束でつくられる」。一見、別々の話に見えます。しかし、三つのずれには共通する構造があります。三つとも、企業の側から見た世界で完結しているということです。
その世界の中では、どの整理も筋が通っています。だから疑問を持つ機会がありません。しかし、顧客の側から見ると、景色は変わります。顧客の視点で考えれば、組織の形は関係ありません。ブランドに取り組んでいない企業は存在しません。約束ではなく記憶の現実が起点になります。三つのずれが、同時にほどけていきます。
主語を顧客に移す
三つのずれに共通していたのは、全てが企業を主語にしていたことでした。企業の組織構造、企業の意思、企業の行為。企業が主語である限り、ブランドとCXを別々の部門の仕事として分担することは、ごく自然な整理に見えます。だから疑いが生まれません。しかしその結果、どうなるでしょうか。マーケティング部門が作ったブランドキャンペーンが、現場で形骸化する。CXを推進する部門が設計したジャーニーマップが、部門の壁で止まる。経営層が策定したパーパスが、現場に届かない。誰が悪いわけでもないのに、全体として空回りしている感覚が残ります。主語が企業にある限り、どれだけ精緻に整理しても、顧客の感情の記憶の中では一つの体験になりません。
主語を企業から、顧客の感情の記憶に移す。
主語を顧客の感情の記憶に移した瞬間、景色が変わります。マーケティング部門とオペレーション部門が、経営層と現場が、同じ顧客について議論できるようになります。組織の壁は残っていても、見ている対象が同じになります。体制を変える前に、主語を変える。それだけで、長年抱えてきた空回りの感覚から、少しずつ解放されていきます。
次回への問い
ブランドとCXの一体化を阻む要因は、認識の中にあります。そしてその認識は、全て企業が主語になるものです。主語を顧客に移すと、認識はほどけ始めます。
しかし、ここで一つの前提が残ります。私たちは本当に、顧客を理解できているのでしょうか。アンケートもNPS(ネット・プロモーター・スコア:顧客が企業やブランドを他者に薦めたいと思う度合いを示す指標)もジャーニーマップもある。それでも、現場の判断はそろわない。もし顧客理解が十分でないとしたら、 私たちは何を見て「理解した」と思い込んでいるのでしょうか。
次回、その前提を問い直します。
(第3回に続く)
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