仕事に関して自分の意志はほとんどなかった。時は男女雇用機会均等法の施行(1986年)もあって、女性の自立が促された時代である。それでも、自発的にやりたいことは特に見つからず、父親やプロデューサーからは「専門を持て」と何度も説教を食らった。

「でも、『女は馬鹿だ』って言われて育ってきてますからね。馬鹿のまんま安穏と生きているほうが楽だったんです」

「ガラスの天井」を
スルッとすり抜けた瞬間

 本人はそんなふうに言うけれど、自分で売り込まずとも仕事が次々に舞い込んでくるというのは、阿川さんの魅力に皆が引き込まれているからだろう。その魅力の一つが、いい意味で肩の力が抜けた阿川さんの空気感だと僕は思う。まさに、「ガラスの天井」を破るのではなく、スルッとすり抜けていく軽やかさだ。

「ガラスの天井」をスルッとすり抜ける軽やかさ。そんな阿川さんの空気感がよく表れたエピソードがある。

 それは「ビートたけしのTVタックル」でのできごとだ。

 石原慎太郎さんや三宅久之さんらと激論を交わしていた田嶋陽子さんが「大体、あんたらが女を馬鹿にするからだ!」などと憤激する場面があった。

 田嶋さんはあまりの怒りに目に涙を浮かべて、「私はもう帰る!」と収録中にもかかわらず席を立った。

 隣に座っていた阿川さんは慌てて田嶋さんの机にあった資料などをまとめて、手渡そうとする。すると田嶋さんは「本当に帰ってほしいのか!アンタは育ちが悪い!」と言って、受け取った資料で阿川さんの頭を引っ叩いたのだ。

「別に帰っていただきたかったわけじゃなくて、お帰りになるっておっしゃるんだもん。だから、ただ荷物をまとめて差し上げたんですけどね。育ちが悪いというのは、おっしゃるとおりですけど(笑)」

 おそらく田嶋さんは男性出演者らの女性蔑視とも取れるものの見方に怒っていたのだろう。そして、その分厚い壁を破ろうと声を荒らげたわけだ。そのすぐ隣で、いとも簡単にスルッと壁をすり抜けてしまうのが阿川さんなのである。