入院した病室でも
玉ねぎを切り続けた
村上信夫先生を演じた時は、毎朝50個の玉ねぎのみじん切りを作り、最低30個のリンゴの皮むきをしました。もちろん全部食べましたし、この頃はとにかくたくさん料理をしました。村上信夫先生は『きょうの料理』という料理番組に出演されていましたから、その中から、村上先生のレシピに沿ってハンバーグやコロッケなどを作りました。
帝国ホテルには「シャリアピン・ステーキ」という伝統的な一品があります。日本を訪れたオペラ歌手、フョードル・シャリアピンが、その時に歯の状態が悪くて、柔らかいステーキを求めたことに応えて作られた玉ねぎのみじん切りが載った柔らかいステーキです。それを本当においしく作れるようになるまで再現する訓練をしました。
一昨年閉店してしまった『ラ ブラスリー』というフランス料理店が帝国ホテルの地下にありまして、そこで実際に村上先生の考案された料理などを食べさせていただいたのですが、料理を運んでくださった方に「今度、村上先生を演じさせていただくことになりました」と伝えたら、お店で働いていた方々が皆喜んで、次々と村上先生に関係のある資料などを持ってきてくださいました。
働いている方々がどれほど村上先生を愛しているのか目の当たりにして、「下手なことをしたら帝国ホテル出禁になるな」と身が引き締まる思いがしました。
さらに、厨房に入れていただいて、どのように皆さんがお仕事をされているのか観察する機会をいただき、村上先生の仕事の仕方や性格的な特徴など数多くのエピソードも教えていただきました。その時に、村上先生と一緒に長いことお仕事をされたシェフの方が、村上先生がお使いになっていた牛刀を貸してくださったのです。翌日からそれを使ってひたすら調理の練習をしました。
タイムトリップして過去に戻れるとしたら村上信夫先生の役を終えた後に戻りたいですね。あの5カ月間は本当に大変で、とにかく毎日料理をして、料理のことばかり考えていました。途中で体調を崩して入院した期間があったのですが、病室の中でも調理訓練を止められず、お見舞いに来てくださった方々が「この病室は玉ねぎの匂いがする」と驚いていました。
そうやってずっと役になりきるためにリサーチや模倣を繰り返していると、自分なりの解釈ではありますが、役のことが分かってくるんですよ。







