プロ格闘家から殴られた瞬間
身もだえしながら感じた「味」

――今回のエッセイ集を読みながら思いましたが、政伸さんは自分が関わる物語の中に出てくる人物や出来事を自分の身体で体験して、肉体的に理解していくことを大事にされていますね。

 それはありますね。

 あるドラマで殴られる場面がありました。「殴られて目の前に火花が散った」と台本に書かれており、どういう感覚だろうと疑問に思い、プロの格闘家のところに行って「ちょっと殴ってもらえませんか」とお願いしました。

「今からいくよ」と言って殴るのではなく、突然殴ってほしいとお願いしました。その格闘家の方が「分かった」と言った次の瞬間に顔面に一発飛び込んできました。鼻がツーンときて、痛みに身もだえしながら「これは大量のワサビを一気に食べたような感覚だ」と思いました。それを監督とプロデューサーに話したらドン引きしていましたが(笑)、「セリフもそれでいきましょうか」と言っていただけました。

 車に轢かれる場面を演じる時は、本当に運転の上手な方にお願いして轢いていただきました。

――えっ、轢かれたんですか?

 そうなんです。絶対にまねしないでくださいね。

 轢かれてみて分かったことは、その瞬間まで車が近づいていることに気づかないということです。であれば、近づく車とぶつかる人を交互に映して状況を説明するセルゲイ・エイゼンシュテインのモンタージュ理論のような撮り方ではリアリティが出ない。監督にそうした気づきを伝え、いきなりボンとぶつかるという撮り方を提案させていただきました。

 その上で、やはり監督がそれとは異なる撮り方がしたいのであれば、もちろんこちらは監督の意向に合わせます。ただ、百聞は一見にしかず、やってみないと分からないことばかりです。体験を経ることでわずかにでも芝居がよくなるかもしれないと思えば、僕は体験したいのです。