父が借金を肩代わり
その代わりに出された条件

――犯罪のにおいが。

 無事に運べたら、次には人間サイズのバッグを運ぶ仕事を与えられ、今度は100万円やると言われましたが、おそらく中身は本物の人間ですよね。こちらも丁寧にお断りさせていただきました。

 打つ手なしで、どうやってお金を作ればいいのかと途方に暮れました。映画の制作でお世話になった金子信雄さんの次男でヘア&メイクアップアーティストの金子こうじろうさんのご自宅で「もう高利貸からお金を借りるしかないかな」と話していたら、こうじろうさんのお母様で、金子信雄さんの奥様の丹阿弥谷津子さんが部屋に入ってこられて「あんた、何言ってんの! そんなことしたらご両親に迷惑かけるだけじゃないの。こんな時に親に助けを求めないで、一体いつ親に助けてもらうの! 土下座でもなんでもして、借金肩代わりしてもらいなさい!」と叱られました。

 貴重なお叱りを受けてようやく目が覚めた思いでした。

 後日、両親が帰宅して食堂に入り腰を下ろした瞬間に、ガラッとドアを開けて「スミマセン!」と言いながら土下座しました。両親は驚いた顔で僕を見つめました。僕はすっと請求書を出して事の次第を説明しました。

「えらい額やなぁ」と呟いた父は、「借金は、肩代わりしてやる。その代わり、条件がある。役者になれ。役者になるんやったら、払ったる」と言いました。もちろん選択の余地はありません。翌日から僕は父と兄の付き人になりました。

 肩代わりしてもらった借金は、その後少しずつ父に返しました。

――本書では、お父様とお母様に関するエピソードが多数紹介されています。

書影『おつむの良い子は長居しない』(髙嶋政伸、新潮社)『おつむの良い子は長居しない』(髙嶋政伸、新潮社)

 父の付き人をしていたときに、最初は本当にぜんぜん役がもらえなくて、もらえたとしてもとても小さな役だったのですが、その時に父が「一隅を照らす者、これすなわち国宝なり」という天台宗の開祖・最澄の言葉を教えてくれました。数十秒の役だったとしても、その瞬間に輝いていたらお前は国の宝だから、めげずに頑張れということです。

 母の言葉で記憶に残っているのは、人の良いところを見つけて褒めろ、ということです。そして、ここが重要だと思うのですが「叱って伸びるやつは、褒めたらもっと伸びる」と母は言いました。母はよく「仕事は楽しんでやるものだ」と言います。

 まだ若くてキャリアが浅かった頃、『HOTEL』というドラマをやらせていただいた時に、僕はよく現場で緊張して硬くなっていました。すると、松方弘樹さんが「緊張もいいけど、仕事は楽しくやるもんだから、もっと楽しくやれよ」と声をかけてくださったことをよく思い出します。

 実際に、演じることを楽しんでいる役者には敵わないもので、本当に生き生きしているし、楽しんでいる方は細かい計算を超えて自由自在にやります。僕も極力楽しんで仕事をしようと思うのですが、そのためにはやっぱり稽古が必要になってくる。何十回でも何百回でも稽古することによって、役を自分のものにしてようやく自由になれる瞬間が訪れるのです。