廊下で力尽きてしまう山本

 明け方、一番鶏が鳴く頃、りんと山本は病院に戻ってきた。

 ふらふらになって、りんに支えられながら廊下を歩き、病室に向かう山本。

「あとちょっとで病室ですよ。頑張りましょう」

 だが山本は力尽きる。

「助けて」と言いながら、廊下で気を失った。

「山本さん」「山本さん」「山本さん」

 叫び続けるりんの元に、直美に呼ばれた黒川が駆け込んできた。

 うすうす分かっていたことではあるが、最悪の事態になった。

「嘘」「山本さん」「起きて」

 りんの声だけが朝方の病院に響く。

 医者のようなことはできないとはいえ、あまりにも何もできないりんにもどかしさを感じる視聴者もいるだろう。りんだって新人ではないのだから。

 報告を受けてテイが駆けつけた。

「嘘だろ。さっき会って、またねって」「何で 何で 死んじゃったの?」

 激しく問い詰めるテイに「申し訳ありませんでした」としか言えないりん。

「馬鹿だねえ、何も命かけてまで私のために」

 テイは夫が死を覚悟して自分に会いに来てくれたことを悟っていた。

 だが、今井と黒川がやって来ると、

「なんでこの人、こんなことに? 今朝がたまで夫は……」

 テイは同じ問いを繰り返す。

 りんが謝罪するのを遮るように、今井は言う。

「ご主人はいつ急変してもおかしくない状況でした。私としては、数週間のうちにとは思っていましたが、このようなことも不思議ではない容態でした。脈も弱く、食事も水分とかゆのようなものしか……」

 これは病院側の落ち度にならないためでもあるだろう。

 つまり牛鍋なんて食べられるわけがないのだ。

「あんた、大ボラ吹きだよ」

 山本辰治は最期に一世一代の嘘をついたのだ。

 こんなふうにまとめると、話としてはまとまりはいい。だが当事者にしてみたらやりきれない。テイの気持ちをどう収めるか。無理して家に帰ってきたせいで寿命が縮まったのではないか。下手したら訴えられかねない案件だ。

 月曜の朝からこんな深刻なエピソードをもってくるとはなかなか人が悪い。山本夫婦の芝居が良すぎて、今日1日考え込んでしまいそう。

こんなん泣くわ…「あんたと逝っちまうのも悪かない」看病疲れの妻に、余命わずかな夫が返したひと言〈風、薫る第71回〉
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