2012年12月 佐々木則夫社長にバイセル残高解消の裏中計を具申

〈DS社〉は、2012年度の予算及び毎四半期の計画段階では、無理な拡大戦略に走らず堅実な事業運営によって利益を計上し、計画的にバイセル残高を解消すると繰り返し説明していたが、結果は各四半期ともその計画を守ることはできなかった。

 加えて9月27、28日の佐々木則夫社長の横暴としか言いようのないやり方。そして競合他社の米HPやデル、中国のレノボが安定した黒字経営をしている中、〈DS社〉のパソコン事業が2012年度上期に営業損失▲248億円の巨額赤字の計上は全く信じられなかった。〈DS社〉幹部たちは、西田厚聰会長のあくなき規模拡大要求のトラウマのなかでやるべきことを見失っているとしか思えなかった。

 私は、2012年11月の社長月例が終了した段階で、〈DS社〉には自らが作成したバイセル残高の解消計画を進めてゆく力が無いと判断した。今後は、無理な拡大戦略は完全に停止し、同時に過剰なバイセル残高の解消に向けて、事業の一部または全部の撤退を提案する中期計画(いわゆる「裏中計」)の案を作成するよう財務部に対し指示した。

「裏」中計との名称は、カンパニー中心に作成されるものとは別に財務部中心に作成する中計であること、事業撤退を伴う人員整理、リストラを含むため極秘に取り進める必要があることから名付けたものである。

東芝 転落の深層――経営不祥事と裁判久保 誠『東芝 転落の深層――経営不祥事と裁判』(朝日新聞出版)

 裏中計では、PC事業や映像事業を「NON-CORE(非中核)事業」と位置づけ、全面撤退と部分撤退を検討した。いずれの場合もバイセル残高とC/O残高はすべて解消する計画にした。佐々木社長の承認が得られた場合には、すぐにコーポレートの関係部門と合同PJチームの発足と資本増強チームを結成することを考えていた。

 同年12月17日、私が上記裏中計を佐々木社長に提案したところ、佐々木社長は「だめな事業を即切っていくのでは、破滅主義」、「他社はうまく出来ているのに、東芝がうまく出来ていないから、撤退という考えはだめ」、「短絡的に利益が出ていないから止めるのでは、大学教授の理屈だ」と述べて私の提案を却下したのだった。

 第三者委員会報告書を作成した丸の内総合法律事務所の弁護士には、私が佐々木社長に「裏中計」を具申したことは説明したのだが、第三者委員会報告書には記載されなかった。

 こうしているうちに2013年2月26日を迎えた。2013年6月に佐々木氏が社長を退任して新たに設置される副会長となること、新社長には田中久雄氏が昇格すること、そして西田氏は会長としてとどまることが発表された。西田氏、佐々木氏、田中氏は東芝本社ビル39階でテレビや新聞、雑誌の記者、カメラの前で会見をしたが、テレビカメラと記者たちの前で西田氏と佐々木氏が口論を始めたことが大きく話題となり、大変恥ずかしく、また情けない思いを抱いたことを鮮明に覚えている。