共に皿を囲む時間が士気を支え、回復力を生むというのだ。同記事で臨床心理士のメリッサ・ボイド米陸軍中佐は、孤独と孤立が心の不調を招く一方、食を通じた繋がりが心身の健康を支え、うつや依存を遠ざけると指摘する。
故郷から遠く離れ、過酷な任務とストレスに晒(さら)される兵士にとって、栄養補給のためのMRE(即席戦闘糧食)のような無機質な配給食では決して埋められない慰めがある。その慰めを、辛さを競い合うあの一皿が、確かに与えているわけだ。
新しい土地で未知の食に触れることは、軍人にとって異文化を知る数少ない楽しみの一つでもある。スパイスや調理法、見たこともない食材との出会いが、任務の合間にささやかな彩りを添える。ココイチは、彼らにとって食堂であると同時に、戦友と心を通わせ、異国を味わう場でもある。
やがて任期は終わる。軍人は配置転換によって日本を去る。彼らが失うのは、もはやカレーソースの味ではない。深夜に同僚と辛さを競った記憶、英語が通じない国で唯一思い通りに注文できた自由、その文脈の総体である。
「米国にもあればいいのに」
海外店舗になかったもの
帰国した兵士や家族は、自宅の台所で「あの味」を再現しようと試行錯誤を繰り返す。米国本土のココイチへ向かう者もいるが、海外店舗では、ソースやメニューが日本国内店と異なる場合もある。ロサンゼルス近郊トーランスの店のレビューにはこんな象徴的な一言があった。
「米国の店にも、日本の店にあるあのチリパウダーがあればいいのに」
おそらく卓上に置かれた「とび辛スパイス」のことを言っているのだろう。
とび辛スパイス
そもそも日本のカレーは、明治の海軍が水兵の脚気を防ぎ、過酷な任務を支えるために英国海軍にならって導入されたものだ。100年以上前に兵士の栄養を支えるために取り入れられ、やがて士気を支える存在にもなったこの料理が、いま米軍兵士の生理と心理にピッタリ合致している。







