一方の朱鷺も単なる富豪の子ではなく、孤児院育ちだったのを先代に引き取られて養子となり、厳しく教育され、養父亡きあとを継いでいたのでした。

 朱鷺には結城家に迎えられた時からの柾(まさき)という側近がおり、朱鷺を「若」と呼んで付き従っていますが、朱鷺のためにはどんな残酷なこともしかねないところがあり、両者の間には相互依存的な深い関係が見られました。

 こうした濃厚な人物たちの周囲にはモデル仲間やカメラマンなどが去来し、それぞれに好意を持って亜美らに接し、心を痛めたりするのですが、過酷な幼少期を過ごした者の気持ちは、普通の暮らしをしてきたものには理解できないのか……といった断絶も見られます。

 他人に心を閉ざしている亜美が初めて恋をするのは、かなり年上の雑誌編集長で、彼は「私はもう恋はしないつもりだ」というのですが、彼がそう言うのはかつて鳳麗香との恋愛に苦しんだためであり、後で明らかになりますが亜美の実の父親でした。

 さらに亜美は結城朱鷺と結ばれるのですが、その直後、2人は双子の兄妹だったことを知ります。しかも朱鷺側はそれを知っており、自分の野望のためには子どもも平気で捨てる母に復讐するために、すべてをゲームとして仕組んでいたのでした。もうドロドロです。

 一方の鳳麗香も、プライドが高く、デザインの仕事に誇りをもって邁進していますが、その他のことには配慮がなく、母としての責務なども眼中にないのは事実です。人としてはどうかと思いますが、プロ意識の高さと傲慢さはいっそあっぱれなほどです。

 これほどに非倫理的設定のドラマが、それでも少女マンガとして成立するのは、作中人物たちそれぞれが必死に自分を信じプライドを持って生きており、世間的なコモンセンスとは別の、天才たちの倫理を感じさせる作品になっているためでしょう。

自分の気持ちだけで描いた
一条ゆかり渾身の一作

 一条自身〈『デザイナー』は自分しか描けないもの、「描きたい」っていう自分の気持ちだけで作り上げた作品だから、絶対に私にしか描けない作品だと思う〉(『正しい欲望のススメ』)と述べており、彼女のプロ意識の産物といった面があるでしょう。