消えた職種「タクシー無線係」の
スゴい仕事ぶり
これらの無線は、電話のように一対一で繋がるのではなく、電波の届く範囲にいる全車両と意思疎通ができる点が特徴だった。
例えば、配車センターの無線係がマイクに向かって喋ると、走行中の全車両のスピーカーから同じ内容が流れる。ドライバーは、応答するときだけ自分のマイクのボタンを押して話す。この簡易な操作で成り立っていた。
無線が主役だった時代、タクシー無線は単なる連絡手段ではなく、いわば会社全体の業務を司るインフラだった。中心にいたのは配車センターの無線係だ。彼らは各車両を「○番」などと呼び出し番号を割り振って管理し、絶え間なく指示を飛ばしていた。
「○○ホテル前、迎車のお客様、○番了解願います」といった具合だ。こんなやり取りが一日に何十回と交わされ、近くを走っている車両が手を挙げるように応答していた。
誰がどのエリアにいるかを無線係が頭の中で把握し、最も近い車を割り当てる。今で言う配車アプリのマッチング機能を、無線係が勘と経験だけでやっていたわけだ。
この割り当ての精度は、無線係の腕次第。熟練のベテラン無線係は、各ドライバーの走行ルートの癖まで把握して声をかけていたという。
また、忘れ物の連絡や、渋滞・事故の情報共有も無線の重要な役割だった。
「先ほど降りたお客様、傘を忘れたとのご連絡です」「○○通り、事故渋滞発生中、迂回推奨」といった一報が流れると、該当車両や周辺を走る車が次々と反応した。
ラジオの交通情報よりも早く、現場のドライバー同士の生の情報が飛び交うという意味で、無線はタクシー業界のライフラインだったと言ってもいい。
取材の中で出会った、無線時代を知る60代のベテランドライバーはこう振り返っていた。
「無線係の声を聞いただけで、その日の忙しさとか、機嫌とか、だいたい分かったもんだよ。今の若い子はスマホの画面しか見ないけど、俺らは声だけで仲間が今どこで何やってるか、頭の中に地図が浮かんでたからね」
別のベテランは、「無線が切られた(廃止された)日、車庫がやけに静かに感じたのを覚えてる。仲間の声が急に聞こえなくなったようなもんだから」と、当時の寂しさをこう語った。
効率や正確さでは、スマートフォンや業務用端末を活用した現在のシステムが圧倒的に優れている。一方で、無線には現場の空気や仲間との一体感という強みがあった。







