これほど機能していた無線は
なぜ使われなくなったのか

 これほど機能していた無線が、なぜ廃れたのか。理由は大きく三つある。

 第一に、GPSとデジタル配車システムの登場だ。無線係が経験や勘に頼って把握していた車両位置を、GPSが正確に地図上へ表示するようになり、配車における勘や経験への依存度は大きく減った。

 第二に、情報の秘匿性の問題だ。アナログ無線は受信機を用意し、周波数さえ合わせれば誰でも傍受できてしまう。乗客の乗車地点や忘れ物の中身が電波に乗って飛び交うのは、個人情報保護の観点から望ましくなかった。

 第三に、配車アプリの普及だ。乗客が直接アプリで車を呼べるようになり、無線係を介したやり取り自体が減っていった。

 簡単に時系列を整理すると、まず2000年代後半に、アナログ無線がデジタル無線に置き換わりはじめた。デジタル無線とGPSを組み合わせ、通信と同時に位置情報を共有する仕組みも使われるようになった。

 そして2010年代に、業務用の車載端末や連絡アプリが普及。2020年代に入ると「GO」などの配車アプリが急速に広がった。

 これらの時代の変化に加えて、専門職である無線係を常時配置するコストの問題も、無線廃止の一因となった。スマートフォンの普及だけが、無線から仕事を奪ったわけではないのだ。

 では、かつて無線が担っていた役割は、今はどうなっているのか。

 結論から言えば、消えたわけではない。かつて一台の無線機が担っていた仕事が、複数のデジタルツールへと分かれただけである。

 迎車の指示や会社からの連絡は、配車アプリが入った業務用端末へ。車両の現在地や目的地までの案内はGPSやカーナビへと受け継がれた。

 無線係が「○番、迎車お願いします」と呼びかける代わりに、現在は配車依頼が端末の画面に表示される。

 乗車地点や目的地、乗客の情報も文字で確認できるため、雑音で聞き逃したり、メモを取り損ねたりする心配はない。通信内容は履歴として残り、必要に応じて後から確認することもできる。