何度かスキャンを繰り返した末、ようやく支払い段階にたどり着くが、今度はクレジットカードの認証が拒否され、「使用できないカードです」と表示されてしまう。ついにワトソンは買い物をあきらめた。

 ワトソンは、ホームズという変わり者のシェアハウスの同居人に翻弄されるだけでなく、たった3年の間に増殖した新しいテクノロジーにも翻弄されている。

セルフレジの案内音声が
利用者を焦らせる理由

 セルフレジは、商品の迅速なスキャン、支払い方式の確認、袋詰めといった一連の流れ作業を利用者に要求してくる。操作に迷ったり、袋詰めに手間取ったり、一定の間隔が空いたことを検知したのだろう。まさにワトソンも直面していたように、「商品をスキャンしてください」のような合成音声での案内が行われることがある。

 なぜ機械はこんなに偉そうなのか?ワトソンも一瞬そう思い悪態をついた。しかし、周囲の空気の冷たさに気がついたワトソンは思い直してすぐに態度を変えてしまった。

 もちろん、このシステムの設計者は、戸惑っている客へのガイドとして、よかれとこの機能を組み込んでいるのだろう。日本のATMやセルフレジでも、必ず同じような機能がついている。「おつりをお受け取りください」などといった具合だ。もちろん、これらには目の見えない人への案内という役割もある。

 この音声の内容は、周囲に無用な緊張感を生み出す。機械の音声は利用者に「遅い」と言っているのと同じ心理的な効果を与える。さらに、この音声は、はっきりとした合成音声の発音で発せられる。その音声は、レジ待ちの列の後ろにまで届いている。列に並ぶ人たちは、この不器用な利用者のせいで待ち時間が生み出されているのだと知らされることになる。

 利用者同士の緊張は、この無神経なガイド音が生み出しているのだ。そして、この音声は、事態を改善することはない。利用者の焦りを生むだけで、状況を改善する手段としては逆効果でしかない。列に待つ人々も、自分がさらし者にならないようにといっそう緊張感を高めている。