≪誰にも気付かれないことこそが成功の証。何とも因果な商売ではないか。……と、ここまで聞いてふと考えた。あえてシエラとは一線を画す、「乗用車的なノマド」にしようという案はなかったのか。≫

F:長いジムニーの歴史の中で、初めての5枚ドア。「もっと大胆に変えてしまおう」というアイデアはなかったのですか?

ピラーを黒く塗らなかった理由

福:ありました。例えばピラーをブラックアウトして、窓をつなげて見せる。いわゆるウインドーグラフィックを大きく見せる案。そうすると室内が広く快適そうに見える。「5ドアの乗用車」として考えれば成立するデザインです。

 でも全部を黒くつないでしまうと、“乗用車っぽさ”が強くなり過ぎるんです。ジムニーは機能的で、悪路を走るたくましさや頑丈さを感じさせるクルマです。ピラーをきちんとボディカラーで見せることで、「太い柱が立っている、しっかりした構造のクルマだ」という印象が生まれます。

 ブラックアウトしても、もちろん実際の柱が細くなる訳ではありませんが、見た目の力強さは明確に弱くなってしまう。3ドアのイメージを残しながら5ドア化するためには、ピラーを隠さずキチンと見せる方が良いと判断しました。

ピラーを黒く塗った例。上がクロスビー、下がフロンクス(広報写真)ピラーを黒く塗った例。上がクロスビー、下がフロンクス(広報写真)

≪昨今のクルマはAピラーから後ろを黒く塗り、窓を一枚の大きなガラス面に見せるデザインが少なくない。実際の車体は変わらなくとも、室内が広く、あたかもルーフが宙に浮いているように見える。いかにも軽快でモダンだ。

 ジムニーが同じデザインを施すと、屈強な柱が目立たなくなり、「堅牢な道具」から「広くて快適な乗用車」側へと寄ってしまう。  後席ドアを増やして快適性を高めても、快適そうに見せ過ぎてはいけない。ここにもまた、ジムニーならではの「鉄の掟」があるようだ。≫

5枚ドアでも「ジムニーらしさ」を感じさせるデザイン

F:実際にはブラックアウトした案も描き、それと見比べた上で敢えて同色の柱を残したのですか?

福:はい。いろいろなパターンを描いて検討しています。今回のデザイン目標は、基本的には3ドアのイメージを残しながら、キチンと5ドアにすることでした。別の乗用車に見せるのではなく、5ドアになっても“ジムニーであること”を大事にしているのです。

 5ドア化を強く主張するのではなく、あくまでも3ドアのイメージを継承する。こう書くと、ノマドのデザインは「何も変えない」ことばかりを考えていたように見える。

 だがよく見ると、シエラとは明確に違う部分もある。最も分かりやすいのがフロントグリルだ。