ある企業の部長クラスの社内メンターが、自分の部会のメンバーに向けて、成功事例として担当メンティの話を披露しました。「彼からこういう相談を受けたけれど、こうアドバイスしたらこんなに成長したんだよ」と、あくまで褒めるつもりでの発言でした。

 しかし、その場にメンティの友人が同席していたのです。友人から話を聞いたメンティは、「なんで勝手に話すんだ!」と激怒し、人事部への通報に発展するトラブルになりました。

 たとえ「褒める内容」であっても、本人の許可なく第三者に話すことは、信頼を根底から崩す重大なルール違反です。メンタリングの場は、守秘義務が守られていることが約束された上で、メンティが言いづらい本音を話す「聖域」です。この認識がメンターに欠けていると、制度自体の信頼が崩壊してしまいます。

【失敗例6】本人の納得がないまま
メンタリングを始める

 最後は、メンティ側の要因です。コーチングでいう「コーチャブル(コーチングを受ける準備ができている状態)」と同様に、メンタリングにも「レディネス(心の準備)」が欠かせません。

 私自身の苦い経験ですが、何年も前のこと、ある会社から無理やりメンタリングへの参加を命じられたメンティを担当したことがあります。会議室に入った瞬間から拒否反応が凄まじく、「なんでこんなことやらなきゃいけないの?」「あなたが私に何をしてくれるの?」と怒りをぶつけられました。

 私も若気の至りから、売り言葉に買い言葉で「お言葉ですが」と言い返してしまい、相手をさらに激高させてしまいました。そして、「この時間の5分にはこれだけコストがかかってるんでしょ?今から私に意味のあることを言いなさいよ」と詰め寄られ、完全に喧嘩別れとなってしまいました。

 今となっては良い教訓ですが、当時は冷や汗ものでした。メンティに対する事前の動機づけ、そしてメンターとしての成熟度が、いかに重要かを痛感した出来事でした。

 メンティの聞く姿勢や話す姿勢ができていない状態でセッションをスタートしても、成果が出ないどころか衝突を招くだけです。メンティがいやいや参加させられているようなケースでは、特にセッションの冒頭で「なぜこの場が必要なのか」を、メンティが腹落ちするまで説明する必要があります。