円安で大企業の業績が拡大し
中小企業や消費者の負担が増えるワケ

 今回の協調介入は、いかに世界の主要投資家が、円を「売り目線」で見ているかを確認する重要な機会となった。介入後も円売りが続いたことで、円安への関心は高まっている。自国通貨の下落は、当該国の社会や経済にプラス、マイナス両方で影響する。

 プラスのひとつは、主に大手企業の業績拡大がある。円安が進むと、輸出からの収益は増える。海外への直接投資(工場の設立など)を行った場合にも恩恵がある。

 わが国の対外直接投資の残高は2012年ごろの70兆円台から24年末に351.8兆円へ、4.5~5倍に増えた。成長期待の高い市場への進出、脱中国や米国の関税政策、地政学リスクへの対応などに大手企業は海外投資を積み増している。

 また、円安が進むと、日本企業が海外に保有する資産(現地通貨建て)の価値が押し上げられる。海外の子会社が、国内の親会社に支払う配当金の円換算金額もかさ上げされる。

 その結果、トヨタ自動車のような大手自動車メーカー、東京エレクトロンといった半導体製造装置メーカー、メモリー半導体企業のキオクシアといった企業の業績は拡大基調になる。

 一方で、国内を事業基盤とする、中小企業の事業環境は悪化する。世界的な物価上昇と円安によって、原材料を輸入に頼る企業のコスト負担は高まる。日銀によると、6月の輸入物価指数は前年同月比で30.1%、7月の速報でも同29.1%と上昇率は高い。

 コストが上昇する中、中小企業にとって値上げは容易ではない。中小企業庁の調査によると、政府の値上げ支援があったものの、昨年9月時点での価格転嫁率は53.5%にとどまった。売り上げが伸びた以上に、仕入れ価格の負担が増えたことで倒産も増えた。円安が進むと倒産件数も増加する基調が見て取れる。

 円安は、私たちの生活負担も押し上げた。特に、食品の値上がりは鮮明だ。また、夏休みの海外旅行を控える人も増えた。JTBの旅行動向調査によると、7月15日~8月31日の海外旅行者数は前年比8.8%減の217万人になる見通しだ。コロナ禍が収束した23年以降では初のマイナス予測となった。