もちろん制御プログラムの数字を47から70へ書き換えればはい一丁上がり、とはいかない。出力を上げれば電流が増え、発熱も増える。モーターだけでなく、バッテリーにもインバーターにも負荷がかかる。冷却はどうするか。高圧電線の耐久性も気になる。そして肝心の航続距離。いくら速くて楽しくても、極端に短距離走者では困る。システム全体のバランスをキッチリ検証した上で、最終的に導き出された数字が70kWだった、という訳だ。

 この小さなEVを速く、軽く、そして楽しく走らせるための答えが95psだったのである。

 ちなみに最大トルク162N・mは、N-ONE e:と全く同じ。

 アレ?最高出力は64psから95psへ約1.5倍になっているのに、最大トルクはそのまんま?ICE車の感覚だと、パワーを大幅に上げれば大抵の場合トルクも一緒に増加する。

 だが出力は、簡単に言えば「トルク×回転数」で決まる。だから最大トルクが同じでも、より高い回転域で大きなトルクを発生できれば最高出力を上げることはできる。

 Super-ONEでは最大トルクこそ162N・mのままだが、BOOSTモードによって最高出力を47kWから70kWへ拡大している。ホンダは宣伝文句で、「中高速域まで力強い加速を継続」と高らかに謳っている。アクセルを踏んだ瞬間の「ドン!」を1.5倍にしたのではなく、その先のジワジワが効いてくるのだ。首都高の合流や中速域からアクセルを踏み込んだ際、Super-ONEは実に気持ちよく速度を乗せていく。N-ONE e:なら出力が頭打ちになってくる領域でも、更にグイグイと伸びていくのだ。そして、この70kWをよりキモチ良く使うために用意されたのが「BOOSTモード」である。

BOOSTモード選択時のメーターパネルBOOSTモード選択時のメーターパネル。「BOOST」の文字が誇らしい Photo by F.Y.

BOOSTモードの遊び心――仮想7速とアクティブサウンド

 BOOSTモードを選ぶと最高出力は70kWまで解放され、同時に「飛び道具」である仮想7速シフトとアクティブサウンドコントロールが起動する。

 アクセルを踏み込むとエンジン音を模したサウンドが響き、速度とともに回転が上がっていく(感じがする)。そして変速。パドルを引けば任意にシフトすることもでき、シフトダウンではブリッピングまでやる。もちろんエンジンもトランスミッションもない。全ては“仮想”である。だが単に音を出しているだけではない。モーターの駆動力を制御してシフトショックまで演出しているので、耳だけでなく身体にも「変速感」が伝わってくる。

 ICE車では、長年いかに変速ショックを消すかに知恵を絞ってきた。それがEVになったら、最新の電子制御を駆使してわざわざショックを復活させている。永遠の無いものねだり……人間って欲張りですね。

 ともあれ、これが楽しいのだ。コーナー手前でパドルを引いてシフトダウン。出口からアクセルを開け、引っ張ってシフトアップ。やっていることはスポーツカーそのものだ。無論かようなギミックだけではない。足腰も気合が入っている。

運転席まわり運転席まわり。ステアリングにBOOSTスイッチとパドルシフトを備える Photo by F.Y.