稲盛が一刀両断した
「部下に任せるべき」の助言
「私は、こうしたアドバイスは自分で経営をしたことがない人が言うことだと思います。実際に経営したことがある人であれば、決してそんな悠長なことは言っていられません」
経営コンサルタントに対する批判としては、かなり強い。稲盛はさらに、「『会社を立派にしたい』『業績を伸ばしたい』と本気で思っているのならば、まずは経営者自身が先頭を切って必死に働かなければなりません」と言う。中小企業なら、「社長自身が率先垂範して誰にも負けない努力をすることが会社を成長発展に導く必須条件であるはずです」、とまで言い切った。
そして、もっとも稲盛らしい言葉が出る。
「『社長が何でもかんでもやるから人が育たない』と批判する人もいますが、そのような批判に耳を傾けて逡巡(しゅんじゅん)する必要はありません。バリバリ働く社長の後ろ姿を見て、見よう見まねでその社長と同じくらいに仕事ができるような人間が、社内から次々に育っていくようにしなければならないと思っています」
ここまで読むと、「やはり稲盛はワンマン経営を肯定していたのか」と思う。部下に任せず、社長が誰よりも働き、その背中を見て覚えろ。いまの経営論とはかなり遠いようにも見える。
だが、同じ講演を少し前まで戻ると話は変わってくる。
「ワンマン経営」を
稲盛は肯定したのか
会社が成長した稲盛自身が最初にぶつかったのは、「このままでは自分ですべてを見ることができなくなる」という問題だった。そこで京セラの組織を数名から十数名ほどの小集団に分け、リーダーを置き、運営を任せた。各集団に採算を持たせ、現場のリーダーに経営者意識を持たせる。後のアメーバ経営である。
「もっと部下に任せろ」と言う人をあれほど批判した本人が、会社では大規模に仕事を任せる仕組みをつくっていた。では、稲盛が怒っていたのは何だったのか。
その答えを急ぐ前に、1本の研究を紹介したい。
ナタリア・ロリンコバ、マシュー・ピアソール、ヘンリー・シムズが2013年に経営学の主要学術誌『Academy of Management Journal』に発表した研究である。研究者たちは60チームを、リーダーが方向や役割を細かく示す「指示型」と、メンバーに裁量を与えて自分たちで考えさせる「権限委譲型」に分け、時間とともに成果がどう変わるかを調べた。
最初に勝ったのは、任せるチームではなかった。







