大切な人を亡くしたとき、心のためにできること〈風、薫る第109回〉

「痛みを逃がす」考え方

 亡くなった吾郎を思って直美が号泣する場面はない。よけいに悲しみが募る。

 直美は「明日から仕事に戻ろうと思います」と言い出す。

「こんな時に働かなくても良いのではありませんか?」と美津(水野美紀)。

「明もまとまって寝てくれるようになりましたし。事務仕事だけですから」

「私は働いてる方がいい」という直美に、「いいんじゃない?直美さんが本当に働きたいなら」とりんは職場復帰に賛成する。

 直美は明を傍らに寝かせて、仕事に励む。看護婦会の人たちは皆、直美が気にかかってならない。そりゃそうだ。どう声をかけたらいいか、戸惑っているのだろう。

 ツル(うらじぬの)はりんに「直美さん大丈夫なんですか?早くないですか?」と訊ねる。

 すると、りんは「痛みを逃がす」という考え方を語りだした。

 佳枝の看護をして気づいたことで。佳枝が外に散歩に出て、気分転換できたことから、「直美さん 家に籠るより、仕事をする方が痛みを逃がせるかもしれないって」

 ドラマが描く「痛みを逃がす」という考え方には一理あるように思う。

 そういえば、以前、シマケン(佐野晶哉)が、楽しいことをしていると時間を忘れるという話を環にしていた(第104回)。

 不調なとき、そこに神経を集中するよりも、違うことを考える。それも夢中になれることを。そうすると、いやなことを一瞬忘れて時間が過ぎ去っていく。いやなことを考えて、途方もない暗闇をさまよわなくて済む方法だ。

 このレビューでも吾郎の死について書くのはいったん傍らにおこう。直美を心配する川口ツルを演じているうらじぬのさんについて書きたいと思う。

 ツルは、恵風看護婦会で働いている。いまのところ、どういうキャラなのかまったく設定が明かされていないし、セリフも少ない。なんだかもったいないなあという気がする。

 演じているうらじぬのさんは『虎に翼』でも笠松まつという明律大学女子部で寅子(伊藤沙莉)の同級生役で出ていた。このときも、フルネームをもらっているにもかかわらず、具体的なキャラ設定はわからないまま、セリフもあまりなかった。ただ、時々、印象的な表情をして、視聴者に注目された。

 なぜ、毎回、フルネームがついている役にもかかわらず、とりたてて出番がないのか。うらじぬのさんは演劇活動をしていたので、身体表現が豊か。ほんの少しの出番でも、視聴者に何かを伝える能力が高い。だからこそ、あえて出番が少なめなところに配置されるのかもしれない。この場を活気づかせることを期待されているのかも。

 いつの日か出番多めの役をやり、『虎に翼』や『風、薫る』にも実は出ていた!と紹介される日が来ることを期待する。

大切な人を亡くしたとき、心のためにできること〈風、薫る第109回〉