豊田氏はいま、自分は「会社のトップ」だと言う。そして、トップになった自分の周りにも、部下の手柄を横取りするような人が「きっとそういう人いるんだろうなぁと思う」、とかなりあっさり認めている。

「僕がいない時、態度変えるのかな」とも言う。

 自分には感じよく接する人が、自分のいないところではどんな態度を取っているのか。豊田氏は、そこを普段から探っているという。社員の側から見れば、役員の前で急に愛想がよくなる人など珍しくない。部下には横柄なのに、上司が来ると声色まで変わる人もいる。だがトップ本人から見えるのは、その「声色が変わった後」の姿である。

 これは経営者には相当に厄介だろう。人を見る目があるかどうか以前に、相手が自分の前だけ別人になっている。トップには情報が集まるが、トップ向けに整えられた情報も集まる。人間関係まで同じである。

「周りに反対意見を言う人を置くべき」
→「全員が反対ってこられたら…」

 豊田氏は、経営論の定番にも少し逆らっている。

「周りには反対意見を言う人を置いた方がいい」と投資家などから言われるそうだが、「そんなのね、耐えられないよ」「全員が反対ってこられたらね。それできませんね」と話す。私もメディアの端くれにいるが、イエスマンばかりじゃ、組織がおかしくなる、というような論調はよく見かける。

 豊田氏の話は、身もふたもないが、よく分かる。何を出しても反対され続けて、それでも機嫌よく決断を続けられる人はそう多くない。

 豊田氏が使った山登りの話は、そのあたりをうまく表していた。「ある程度違った見方をする人は周りにいていい」と言う。だが、自分は山に登っているのに、「自分はマリンスポーツをやってる」人がいたら「合わない」と言う。会社にも、そこだけは共有しなければならない価値観があるということだ。

手柄を横取りする上司の下で
「どうすればいいのか

 さて、相談者にとって肝心なのは、あんな上司の下で自分はどうするかである。ここで豊田氏が持ち出したのが、「上司は次のバス」という比喩だった。

「以前から、上司なんてバス停で待ってる次のバスみたいなもんよって、よく言われた」

 豊田氏も若い頃、相談者と同じような思いをした。そんなとき、いろんな先輩たちから「次のバス来るから待ってろよ」とよく言われたと言う。

 どれほど嫌な上司でも、永遠に同じ上司ではない。定年や人事異動で上司が替わることもあれば、自分が別の部署へ移ることもある。今の上司は、長い仕事人生の途中に来た一台のバスにすぎない。

 実際、相談者も異動によって前の上司から離れ、別の上司の下で働いている。そこで豊田氏は、「だから結局さ、次のバス来たんでしょ。だからちょっと次のバスと、当面うまくやろうよ」と語った。上司にこびろという話ではない。今の上司を、自分の仕事人生のすべてだと思うなという話である。

 そのうえで豊田氏は、上司を訴えろとも、転職しろとも言わなかった。