建設費の75%をJR負担?
それでは「国鉄の二の舞い」だ

 ここでいう「国鉄(の失敗)」とは何か。第1には、借入金頼みの大規模投資を繰り返した結果、債務が雪だるま式に膨らみ財政破綻した。第2には、新線の建設や運賃改定、経営補助など、さまざまな面で政治の介入または不作為で経営の自主性が失われたことだ。

 整備新幹線は既設新幹線(東海道・山陽・東北・上越新幹線)より旅客需要が小さく、黒字化が容易ではないことは当初から分かっていた。そのため国が建設費を負担し、並行在来線を切り離し、新幹線の経営のみJRに委ねることで、事業を成立させる。政治が整備新幹線を押し付け、JRが建設費や営業赤字の負担を強いられる構図は、絶対に避けなければならなかった。

 一方、国が丸抱えで建設することにも批判が多かった。例えば、大蔵省はどうしても作るのであれば建設費の半分はJRが負担し、しかも、自己負担の有利子負債で賄うべきだと主張したが、それこそ国鉄の二の舞いだ(大蔵省も無理を承知で提示したのだろう)。

 最終的にJRが支払う新幹線リース料(詳細は割愛するが、1987年から1991年まで既設新幹線は新幹線鉄道保有機構が保有し、JRはリース料を支払って使用していた)の一部を「JR負担分」とみなし、追加の支出を伴わない形で決着した。

 1998年の新規着工にあたり財源スキームは見直され、JRの負担は「受益の限度」とすることが明記された。受益とは新幹線開業に伴い開業区間・関連線区で発生する利益、赤字改善分の合計である。建設費がいくらであろうが、総額の何%という取り決めではなく、受益の範囲のみを負担するという原則である。

 随分と昔話が長くなったが、今を考える上で非常に重要なことなのでご容赦いただきたい。今回、非公式ではあるが、建設費の75%をJRが貸付料として負担する案が観測気球的に語られている。ここまで見てきて分かるように、JRの負担が「受益の範囲」ではなく、建設費総額に対する割合で決定するのでは、整備新幹線の大前提が崩れてしまう。

 8月10日付『そりゃ無理だ…北陸新幹線延伸「2027年度着工」を阻む5つの巨大な壁』で試算したように、建設費4.7兆円(3.9兆~5.5兆円の中間値)と想定した場合、75%は約3.5兆円だ。

 JR負担分は30年分の貸付料なので、年間1175億円を支払う必要がある。同社の2025年度の連結営業利益は約1980億円。その半分以上にあたる貸付料など負担できるはずがない。これが押し付けられるのでは国鉄の二の舞いだ。

 これが50%であれ30%であれ事情は変わらない。JR西日本の負担はあくまでも受益の範囲内でなければならない。着工5条件のひとつが「営業主体であるJRの同意」である。24日の国土交通大臣との面談でJR西日本は「貸付料は新幹線ができたときの受益の範囲内で支払うことがルール。経営の自主性や健全性が損なわれない形での配慮をお願いしたい。そういった形での仕組みづくりをお願いしたい」とも述べている。JRが財源スキームを呑まない限り、着工はできない。

 JR東日本にしても同様だ。敦賀~新大阪間開業に伴いJR東日本区間で発生する受益(根元受益)を貸付料として徴収し、建設費の一部に充てようという議論も出ているが、同社のコントロールが及ばない所で、政治の差配により巨額の負担が決定するのでは、国鉄の二の舞いだ。

 1987年以降、整備新幹線の財源スキームは何度も再構築されており、制度の見直し自体が不当とは言わない。だが、仕組みを変えるのであれば、整備新幹線建設の出発点、大原則を踏まえた議論を経て行うべきだろう。政府・与党は2027年度の着工を目指して京都府市の理解を得たいとしているが、問題の本質はそこではない。整備新幹線という政策そのものの意義が問われているのである。