乗用車の車載ソフトウェアの規模は、従来車でもソフトのコード数で言えば数億行の規模に達する複雑なシステムと化しています。次世代車のOSを基盤から自作するのであれば、プロジェクトにかかわるITエンジニアだけで数千名が必要になります。
それも分野としてOS、ミドルウェア、クラウド、AI、サイバーセキュリティ、API、データ解析、デジタルツインなど必要とされる専門領域は多岐に亘ります。
概算してみましょう。世界的なIT人材争奪戦の中で、仮に日産ホンダ連合がトップクラスのエンジニア2000人を確保できたとします。ひとりあたり人件費と開発環境の整備で5000万円かかるとすれば、年間の開発投資はITエンジニアだけで1000億円に上ります。これが最低でも3年間続くとしたら、最終赤字▲4239億円のホンダ、▲5331億円の日産が単独で開発にあたるのはほぼ無理です。
これが日産ホンダ連合が復活した経済的な理由です。
【視点2】
車としてのアーキテクチャの違い
そして日産とホンダが直面するSDV車開発の最大の障壁はこれまで話してきたソフトウェア開発ではなく、むしろこれからお話しするアーキテクチャに課題が存在します。車のハードウェアのアーキテクチャがSDV車と従来車ではまったく異なるのです。
先述したように従来のガソリン車では一次サプライヤー各社が各部の設計開発を担い、それをすり合わせて完成車を作ります。結果として従来車ではそれぞれの担当ごとにECUが置かれることで、一台の車のECUの数は25~30に上っています。
それがテスラの場合は、最初からSDVとしてコントロールすることを念頭にECUの設計構造をシンプル化しています。例えば車を右前、左前、後部の3つのゾーンに分けて、それぞれのゾーンにゾーンのコントローラーを起きます。このような設計思想だと右タイヤと右ドアは同じゾーンとして管理されることになります。
このアーキテクチャの違いから物理的な違いとして目をひくのが、テスラのワイヤーハーネスの短さです。
従来の日本車は各部を別々に設計してあとから統合するせいで、配線部品であるワイヤーハーネスは数kmの長さになっています。結果として日本車は配線が長く、コネクターが多く、ワイヤーハーネスが重く、おまけに車種ごとの設計変更が大変だという課題を抱えています。
テスラは中央ECU→ゾーン→部品という場所別のアーキテクチャを選んだことで配線は短く、ECUの数は少なく、かつ部品や機能の追加変更がしやすくなっています。
ちなみに中国のBYDは別のアプローチを採用しています。現行車のワイヤーハーネスの長さは日本車とそれほど変わらないように見えますが、部品そのものを統合することで次世代車の配線を最小限にし、コストと重量を削減するアプローチで開発を進めています。
代表的なのは8-in-1電動パワートレインで、モーター、インバーター、減速機など主要な8つのコンポーネントを一体化しています。
ここが日産やホンダにとっても最大のチャレンジで、こういったクルマの設計思想自体をイノベーションしなければ次世代SDV車は完成できません。今、報道されている範囲から推察するに、日産ホンダ連合はテスラ型のアプローチで次世代車アーキテクチャを開発しようとしているように見えます。
ちなみに両社の社風を考えると、仮に次世代OSが完成したとして、変化に対応しやすいのは日産のエンジニアの方かもしれません。一方で誇り高いホンダのエンジニアたちは、クルマの開発思想を180度転換させるのに物凄く大きなエネルギーを必要とするのではないでしょうか。







