99.9%の相手は
「恐れ多い」と身構えてしまう
豊田はショート動画で少年を見つけた。かつてトヨタのアジア本部長を務め、インドネシアも担当していたため、最初に浮かんだのは「今度インドネシアに行った時に見たいな」だった。曲がサカナクションだと知ったのは、その後である。
やがて豊田は、音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」の会場でサカナクションと会った。本人たちの前でボート少年の動きをすると、一緒に動画を撮る話になった。豊田は自分を先頭役にしてほしいと頼んだ。音楽を流さずに撮影し、後から曲を付けても動きがぴたりと合ったという。
インドネシアの少年、かつて担当した土地、2012年の曲、音楽賞での対面。初めから1本の筋書きがあったわけではない。偶然見た動画を記憶に残し、目の前の相手へ差し出したから、点がその場でつながった。
ここで流行は、経営者の雑学から、その場にいる人たちの共通語へ変わった。
豊田の名前と立場を前にすれば、99.9%の相手は「恐れ多い」と身構えると言う。そのため「相手が気を使っていると、その100倍気を使っちゃうの。だから自分でアイスブレイクをする術として流行を追ってる。で、そういう人たちと会った時に、それをちょっと出すことによって、相手側がリラックスする」と明かした。流行を追うのは「知っている。すごいだろう」と見せるためではなく、アイスブレイクに使うためだった。
流行は人との
共通語になる
冒頭の寿司ネタも同じである。豊田は、大企業の会長として敬われるだけでなく、「車庫」「車海老」とクルマのダジャレで遊ばれる“親父”の役を楽しんでいる。しかも、三四郎が先に落ちを言っても、そこで終わらない。別のネタを重ねて笑いを取り返す。この身軽さが、相手から過度な遠慮を取り払う。
会長がいきなりボート少年の動きを始めれば、相手も「御意」と答え続けずに済む。これはなかなか強い。知識の披露より、自分の立場を下ろす方に使っている。
自動車とは関係のない動画を、役に立たないと切らない。この癖には、経営研究の名前も付いている。「弱いシグナル」である。経営研究には、まだ重要性がはっきりしない小さな兆しに目を向ける「弱いシグナル」という考え方がある。







