Barbara L. van Veenらが2019年に学術誌「Futures」で発表した「弱いシグナルを見逃す『認知の偏り』をどう補うか」(Compensating for perceptual filters in weak signal assessments)は、高い成果を出している経営幹部13人への聞き取り研究だ。その中で繰り返し見つかったのは、見慣れず、自分の考えに合わない情報をわざと探すことと、自分とは違う見方を集めることだった。
対象は13人であるものの、豊田の「そればかりになっちゃう」という警戒と方向は重なる。豊田はYouTubeのおすすめが偏る仕組みと、同じものを選び続ける自分の癖を見張っているのだろう。
「20年ぐらいかかった」
流行の先をいつも考える
この流行の見方は、アルファードとヴェルファイアの話にも表れる。今では高級な送迎車として見慣れたトヨタの大型ミニバンだが、豊田が運転手付きで使い始めた20年以上前は、レジャー用のワンボックスカーと見られていた。
運転手付きのアルファードでホテルへ行っても、正面ではなく業務用の入り口へ回されたと言う。「今はそんなことないですよ。今はロビーのど真ん中にポッと置ける。でも二十年ぐらいかかりましたね」「流行は追うんだけど、その先は何かなっていうのをいつも考える流行の追い方をしてますね」と、豊田は振り返る。
豊田にとって流行は、まだ周囲が認めていない使い方を、自分で先に始めることまで含んでいるのだろう。
豊田章男が
「わざと見る」ものとは?
では、「そればかり」を防ぐには何をするのか。豊田の答えは簡単だ。「こういう情報は常に欲しい」と思ったら、その業界のYouTubeやショート動画を「わざと見る」のだと言う。
1本でも、履歴に新しい材料が入れば、おすすめを待つだけの画面が、知らない世界への入り口になる。豊田は視聴履歴を、次に見たいものの注文票として使っていた。
そこで拾った情報をサカナクションとの会話へ持ち込み、初対面の空気を崩す。流行の先を考え、アルファードの新しい使い方を20年かけて世間へ定着させる。短い動画を見て終わる人と、ここで差がつく。
豊田章男の「ショート動画」鑑賞を100倍面白くするひと手間は、欲しい分野の動画を、わざと見ることだった。その1本が、次の情報と次の出会いを連れてくる。
「トヨタ自動車の流行部長」の冗談には、ずいぶん本気が混じっていたようだ。







