しかし、お金を借りた友人がすでに破産していたり、行方不明になっていて実際には1円も回収できる見込みがないケースもあります。回収できないお金にまで相続税がかかってしまっては、ご遺族にとって大きな負担です。
相手の支払い能力が著しく欠如しているなど「回収不能」であることが客観的な資料(破産手続開始決定の通知など)で証明できる場合は、財産評価基本通達により、その部分を元本の価額に算入しないことが認められます。
なぜ人は貯めたお金を
調査に怯えながらも隠すのか
――非常に多くの実地調査を経験された上でお聞きします。なぜこれほど多くの人が、調査に怯(おび)えながらお金を隠そうとするのでしょうか。
千葉文男(ちば・ふみお)/税理士。2019年8月22日税理士登録。国税OBとして資産税分野に32年の実務経験を持ち、相続税・贈与税・譲渡所得などを専門とする。現在は生前対策から二次相続まで見据えた総合的な相続対策を得意とし、弁護士・司法書士など各専門家と連携したワンストップ対応にも強みを持つ。
多くの調査を経験していると、人は贅沢(ぜいたく)をするためにお金を貯めるわけではない、と感じます。
長年かけてコツコツと、日々の節約によって少しずつお金を蓄え、それを銀行に預けることすら抵抗を感じて手元に保管していた人も多い。誰にも言わず、使うこともなく、ただひたすらに貯め込んでいたというケースもあります。
質素に暮らしていたからこそ、これだけの現金が残ったのだと分かった時、人間の心理の複雑さを感じます。
お金を使うことが目的ではなく、「持っていること」「手元に置くこと」自体がご家族にとっての唯一の安心感や心の支えだったのかもしれません。それともう一つ、先祖から受け継いだ財産を自分の代で潰すことなく後世に無事に引き継ぐよう、親から言い継がれているケースもあります。
税務調査官の本来の使命は、法に基づき、隠された財産を正確に把握し、適正な課税を行うことです。そして、納税者が正しく申告を行えるよう導くことにあります。
しかし、その実務の中で調査官が目にするのは、単なる数字や書類の羅列ではありません。意外な財産が見つかる裏には、必ずご家族の知らなかった被相続人の一面や、生前の思い、人間関係が存在します。
なぜそのお金を隠さなければならなかったのか、なぜ家族に言えなかったのか。調査という仕事を通して人生最後のドラマに立ち会わせてもらっていたと思っています。
―― 一見すると無機質で地味に思える相続税の税務調査。しかしその現場では、厳格な法的手続きと、被相続人が遺した深遠な人間ドラマが常に交錯している。
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