一方、中国側の要求が、「四つの政治文書を守る」「実際の行動によって政治的基礎を維持する」という方向に移るのであれば、性質は異なる。

 こちらは、高市首相に過去の答弁そのものを否定させる要求ではない。今後の外交・安全保障上の行動を、歴代政権が維持してきた基本線から大きく逸脱させないよう求める条件と読める。

 言い換えれば、前者は「過去を否定せよ」という要求であり、後者は「既存の立場を維持しながら、追加的な摩擦を抑えよ」という要求である。

 過去の国会答弁を正式に撤回することは難しくても、日本政府従来の基本線を大きく変えず、新たな対中摩擦を追加しないことは可能だ。

靖国参拝の見送りは
「新たな摩擦」を加えていない

 高市政権には、すでにそのように読める行動がある。8月15日、高市首相は靖国神社を直接参拝せず、自民党総裁として私費で玉串料を奉納し、日本武道館の駐車場から靖国神社の方向に遥拝した。

 中国側はなお抗議した。それでも高市政権側の行動として見れば、首相本人の参拝という新たな象徴的摩擦を追加することは避けた。関係改善と呼ぶほどではないが、「既存の立場を撤回せず、新しい摩擦も増やさない」行動には見える。

 習近平政権が過去の答弁の撤回に固執するなら、日本側が動ける余地は小さい。しかし、習近平政権が「今後の行動」に重点を移し、高市政権も新たな摩擦を加えないのであれば、双方が基本的立場を正式に否定しないまま首脳会談を成立させる余地が生まれる。

 2014年の四項目合意と全く同じではない。それでも、「どちらか一方が全面的に屈服しなくても成立する条件をつくる」という構造には共通点がある。

 次に見るべきなのは、中国側に見られるこの変化が、今後も同じ方向に定着するのかである。今後、王毅外相以上のレベルを含む公式発言で「撤回」が再び現れるのか。それとも「四つの政治文書」「実際の行動」が繰り返されるのか。ここが重要になる。

11月まで待つ必要はない
9月から10月に見るべきサイン

 第一に見るべきなのは、中国側の言葉である。

 9月18日は、柳条湖事件、いわゆる「九一八事変」の記念日だ。中国側が対日歴史批判を強めやすい時期にも「四つの政治文書」「関係改善の条件」といった外交言語を残すのか。とりわけ、公式文言から消えた「撤回」が戻るかどうかに注目すべきだ。