もう一つは戦略上の理由だ。日本を米国の対中競争の枠組みにさらに押し込むことにもコストがある。日米協力は防衛だけでなく、半導体、経済安全保障、重要鉱物、サプライチェーンにも広がっている。

 ただし、日本が一方的に中国側の条件を待つ立場にあるわけではない。日本にも半導体製造装置や先端素材、投資、供給網など、習近平政権が簡単には無視できない強力なカードがある。ただ、その多くは11月のAPECまでにすぐ切れるカードではない。

 したがって問題は、「中国は日本を必要としているか」という抽象論ではない。中国にとって日本がどれほど重要かは、その時々の外交環境によって変わるからだ。

 習近平政権が日本との関係をこれ以上悪化させないことに、どれだけの価値を見いだすか。その答えは、ワシントンとの関係やAPEC運営など、その時点で中国が抱える外交課題によって変わる。

 その判断を左右する大きな材料の一つが、米中関係である。

習近平政権は米中会談の前から
「対日カード」を準備しているのか

 習近平主席とトランプ大統領は、9月24日に米国で会談する方向で調整が進んでいると報じられている。

 米中双方は現在、首脳会談に向けた事前交渉を進めているとみられる。この米中首脳会談がどのような結果になるのかを、現時点で正確に予測するのは難しい。米中間には貿易、先端技術、安全保障など複数の争点があり、おそらく中国側自身も、交渉が最終的にどこへ着地するのかを完全には見通せていないだろう。

 だからこそ、首脳会談の「結果」を先回りして予測するより、米中間の交渉が続くなかで、習近平政権がすでに日本との関係を動かす選択肢を準備しているかを見る方がよい。

 米中関係が比較的安定する方向へ進めば、中国が対日関係を急いで改善する必要性は低下するかもしれない。逆に再び不安定化すれば、日本をこれ以上米国側へ押し出さないことの重要性が高まる可能性もある。

 さらに今年、中国は深センAPECの主催国だ。習近平政権には、米中交渉の行方がまだ固まらない段階でも、日本との関係を完全に閉ざさず、必要になった場合に首脳外交を動かせる余地を残しておく合理性がある。

 その意味で興味深いのが、米中首脳会談を待たず、8月27日にすでに現れた中国側の公式文言の変化である。