《『数さえ合っていればそれでよい』が基本的態度であって、その内実は全く問わないという形式主義、それが員数主義の基本なのである。それは当然に、『員数が合わなければ処罰』から『員数さえ合っていれば不問』へと進む。従って『員数を合す』ためには何でもやる。『紛失しました』という言葉は日本軍にはない。この言葉を口にした瞬間、『バカヤロー、員数をつけてこい』という言葉が、ビンタとともにはねかえってくる。紛失すれば『員数をつけてくる』すなわち盗んでくるのである》

 この記述からもわかる通り、員数主義は「自分の立場さえ守れればいい」という自己保身、そして数字合わせのための不正や搾取は「必要悪」として容認するなど、個人の良心や倫理観を麻痺させてしまうのだ。

内部通報を潰す「逆ギレ」
日本軍を滅ぼした員数主義

 実は今回の外部の弁護士による調査報告書を読むと、中部電力内の一部の人々がこの員数主義に毒されていることが伺える。

 報道もされているが、今回のデータ改ざんについては、社内で問題視する声や内部通報は度々あった。あるとき、不適切行為を防止するための社内相談窓口「ヘルプライン」の担当者が、原子力土建部に対して、計算最短周期の設定に関する事項も資料に具体的に記載をすべきだと求めたところ、こんな「逆ギレ」的なメールが返ってきた。

《「もし、浜岡を諦めるリスクを自ら顕在化させるということであれば、ご指摘の様な記載もしますが」》(調査報告書(開示版)226ページ)

 要するに、こっちがせっかく「数字合わせ」をして資料を作成してやっているのに、あなたの余計な横槍によって、浜岡原発の再稼働はできないですけど、本当にそれでもいいんですね、という遠回しな「脅し」である。調査報告書でもこのように指摘している。

《「上記電子メールには、異論を唱える者に圧力をかけるような形で、自らの対応方針を阻害する指摘等を排除しようとする意図も見受けられる」》(同上)

 中部電力内の一部の人々は「浜岡原発再稼働のためのデータをつくる」という員数主義に支配されてしまっていたのだと考えられる。山本七平氏の言葉を借りれば「員数を合わすためには何でもやる」という状態だった。だから、データ改ざんも繰り返すし、社内の異論も圧力で跳ね返す。

 そもそも浜岡原発の立地は、大規模な東海地震の震源域の真上に位置している。中部電力は「活断層の上ではない」などと必死に安全性をアピールしているが、危険性を指摘する専門家もいる。

 そんな中、必死に再稼働を目指してきたが、「員数主義」にとらわれて不正が蔓延して、組織が内部から自滅してしまった形だ。

 この構図は、無謀な戦争に突っ込んで、同じく員数主義にとらわれて身の丈に合わない拡大路線から引っ込みがつかず、内部から自滅した日本軍とまるっきり同じだ。

 今回の中部電力の自滅は、すべての日本型組織に当てはまる。我々の社会は「大きな目的のためには小さなルール無視は必要悪」とか「組織全体の成功・利益のためには多少の犠牲もやむをえない」というような考え方を肯定的に捉えるムードがある。

 社会に出て働いている人ならば、売上目標やノルマという「数字合わせ」のため、ちょっとしたズルや胡魔化しに手を染めてしまう上司や同僚を見かけたことがあるはずだ。「員数主義」は、みなさんの会社の中でもちゃんと受け継がれているものなのだ。