習近平がAIに力を入れるワケ
経済発展よりも世界覇権を握るため?

 このように中国では従来型産業の低迷と、AI分野の活況というコントラストが浮き彫りになっている。しかし今のところ、AI分野のダイナミズムを、従来型分野の底上げにつなげるような経済政策は見当たらない。

「習近平氏が国内経済よりも重要視しているのは、2027年秋の党大会に向けた自身の基盤強化だ」――中国経済の専門家からはこのような指摘が増えている。習氏はこれまで綱紀粛正や汚職摘発などを断行して、政敵を徹底して駆逐してきた。また、思想教育なども拡充して、中国が豊かになるという価値観を国民に植え付けようとしている。

 そうした状況下、習氏は、AIの開発力の引き上げは重視している。狙いは、AIで世界の覇権を握る、米国に勝利することに他ならない。

 習氏にとって、AIは経済を豊かにするためというよりも、政治的な重要性の意味合いがあり、その考えをいっそう強くしているのではないか。それを裏付けるのが、7月の世界人工知能大会で、自ら初めて基調講演を行ったことだ。

 今年の大会には、新興国の首脳陣に加えて、国際連合のグテーレス事務総長も出席した。計算機界のノーベル賞と称されるチューリング賞やノーベル賞受賞者も参加した。そして中国の主導で、WAICO(世界人工知能協力機構)という世界初の政府間AI国際機関(本部は上海)を発足させた。

 習氏は、自らの意向に従うことが、中国の繁栄と世界の安定につながると主張した。一方、米国のアンソロピック、オープンAI、グーグルなどが、AIのリスクを認識し、開発スピードを遅らせると発言した。習氏は、米国を追い越してAI覇権を手に入れる機会を虎視眈々と狙っているはずだ。

 こうした習氏の発言からも、中国のAI開発は基本的に、産業の成長や活性化ではなく、習氏の実力を国内外に示すことを主眼としていると受け止められる。この発想では、中国AIに期待を寄せることはできても、中国全体の景気が本格的に回復するとは考えにくい。